2026年6月13日土曜日

第49回D問題 第11問 特徴的なエピソード(長期臥床、下肢の浮腫・疼痛、排便・離床後の突発症状)から、エコノミークラス症候群として知られる「急性肺血栓塞栓症(肺塞栓症)」の病態を完全に見抜く、国試・臨床ともに超重要となる問題

11 68歳の女性。新型コロナウイルス感染症に罹患し、数日前から臥床が続き、左下肢のむくみを認めていた。本日トイレに行った後から急に息苦しくなり、救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 2。呼吸数36/分。脈拍120/分。血圧76/52 mmHg。体温38.0℃。SpO2値 75%。異常呼吸音を聴取しない。外頸静脈怒張を認め、左ふくらはぎの痛みを訴える。心電図モニター波形(別冊No.7)を別に示す。酸素投与を行い搬送開始したが、容態変化し心肺機能停止状態となったため心肺蘇生を開始した。

 心肺機能停止の直接の原因として最も考えられるのはどれか。1つ選べ。

1 急性心筋梗塞

2 肺血栓塞栓症

3 うっ血性心不全

4 ウイルス性肺炎

5 ウイルス性心筋炎





解答 2


解説:深部静脈血栓症(DVT)から肺塞栓症(PTE)への機序

傷病者は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」に罹患し、数日前から寝たきり(臥床)が続いていました。この背景と観察所見をパズルのように組み合わせると、1つの致命的なストーリーが完成します。

  • 2 肺血栓塞栓症(正解):

    • 血栓ができるまで(深部静脈血栓症:DVT): 数日間の長期臥床によって足の血流が滞ったこと、さらに新型コロナウイルス感染症自体が「血液が固まりやすくなる性質(高凝固状態)」を引き起こすため、左下肢の静脈の中に巨大な血の塊(血栓)が形成されました(これが「左下肢のむくみ」「左ふくらはぎの痛み」の原因です)。

    • 血栓が飛ぶ瞬間(排便後の突発): 本日、傷病者が「トイレに行った(いきんだ、または立ち上がって歩いた)」ことをきっかけに、足の静脈にあった血栓がペリッと剥がれて血流に乗り、下大静脈を経由して右心房・右心室を通り、肺の太い血管(肺動脈)にガツンと詰まりました

    • なぜ心停止に至ったか: 肺の血管が完全にブロックされたため、右心室は血液を前に押し出せなくなり、肺で酸素を取り込むこともできなくなります。これが「SpO2 75%の超低酸素血症」、血液が戻らなくなって首の血管がパンパンに腫れる「外頸静脈怒張(がいけいじょうみゃくどちょう)」、そして心臓から全身へ送る血流が途絶えた「血圧76/52 mmHg(閉塞性ショック)」の正体です。肺の音自体は綺麗(「異常呼吸音を聴取しない」)なのも、原因が空気の通り道(気管支)ではなく「血管の目詰まり」だからです。このショックと低酸素が極限に達し、搬送中に心停止へと至りました。

他の選択肢の分析(なぜ否定できるのか)

  • 1 急性心筋梗塞: 突然のショックや心停止の原因になりますが、「左ふくらはぎのむくみ・痛み」や、肺の血管が詰まることで起きる「外頸静脈怒張」をこれほどきれいに説明することはできません。

  • 3 うっ血性心不全: 第15問で解説した通り、心不全による肺水腫であれば、全肺野で「水泡音(パチパチという音)」が聞こえ、ピンク色の泡立つ痰が出るはずです。本症例は「異常呼吸音を聴取しない」と明記されているため否定できます。

  • 4 ウイルス性肺炎: 新型コロナによる肺炎であれば、数日前から徐々に(グラデーションを伴って)息苦しさが悪化し、聴診でも肺雑音(捻髪音など)が聞こえるはずです。「トイレに行った後から急に息苦しくなった」という秒単位の突発発症の経過とは一致しません。

  • 5 ウイルス性心筋炎: 心不全やショック、不整脈の原因になりますが、やはり「左下肢の局所症状(血栓症のサイン)」との結びつきがありません。

救急救命士としての臨床的視点:心停止波形の予測と「PEA」への対応

  1. 心停止時の波形は「PEA(無脈性電気活動)」: 肺塞栓症によって心停止に陥った場合、モニター心電図には高確率で PEA (心電図の波形は出ているのに、心臓の物理的な目詰まりのせいで脈が全く触れない状態)が記録されます。第17問のロジックの通り、電気ショックは適応外(Non-shockable)となるため、「絶え間ない胸骨圧迫 + 早期のアドレナリン投与の指示要請」が治療の主軸となります。

  2. 臨床現場での「問診」の破壊力: 救急隊が現場に到着した際、「急に息が苦しくなった」という主訴だけでは原因が分かりません。しかし家族から「最近コロナでずっと寝込んでいた」「そういえば足が痛いと言っていた」「トイレから出てきた途端に倒れた」というキーワードを聴取できれば、CTを撮る前であっても「肺塞栓によるショックだ、急変(心停止)するぞ!」と完全に身構えることができます。

  3. 搬送中の急変への覚悟: 急性肺塞栓症は、救急車内で最も急変(心停止)しやすい疾患の筆頭格です。血圧76 mmHg、SpO2 75%というバイタルを見た時点で、隊長は「一分一秒を争うロード&ゴー」を宣言し、車内ではいつ心停止してもいいようにBVMや除細動器、特定行為(アドレナリン投与)の資器材を完全に手元に広げた状態で、超厳重警戒を維持しながら走行します。

まとめ:長期臥床・コロナ + 片足のむくみ・痛み(DVT) + トイレ後に突然の激しい息切れ(PTE) = 肺血栓塞栓症(閉塞性ショック) = 車内での心停止(PEA)を最大警戒せよ!」 臨床医学において「絶対に見落としてはならない致命的疾患」のサインをこれでもかと詰め込んだ、救急隊の現場判断能力を鍛えるための超名問です。


第49回D問題 第12問 在宅人工呼吸療法中の傷病者に発生した超緊急事態(呼吸不全・心停止寸前)に対する、救急隊の最優先アクションを問う問題

12 56歳の男性。筋萎縮性側索硬化症のため在宅でマスクによる非侵襲的陽圧換気(NPPV)を行っていた。人工呼吸器のアラームが鳴り目を開けなくなったため家族が救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 300。呼吸数8/分。脈拍62/分。血圧100/80 mmHg。SpO2値 72%。

直ちに行うべきことはどれか。1つ選べ。

1 高濃度酸素投与

2 主治医への連絡

3 人工呼吸器の点検

4 静脈路確保および輸液

5 バッグ・バルブ・マスク換気


解答 5


解説:生命の危機に対する「ABC」の原則と最優先処置

傷病者は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の既往があり、自宅でNPPV(マスクを用いた人工呼吸器)を使用していましたが、機械のアラーム鳴動とともに意識がJCS 300(完全な昏睡)にまで悪化しています。

  • 5 バッグ・バルブ・マスク換気(正解):

    • 絶対的な換気不全: バイタルサインを見ると、呼吸数が 8/分(著しい徐呼吸)、さらに SpO2値が 72% と、今すぐに心停止に至ってもおかしくない致命的な低酸素血症(終末期の呼吸不全状態)に陥っています。

    • 救急医学の大原則(Airway & Breathing): 救急隊が現場に到着した際、目の前の傷病者が窒息しかけている、あるいは呼吸が止まりかけている場合の鉄則は「A(気道確保)をして、ただちに B(人工呼吸・換気)を行うこと」です。

    • 人工呼吸器から受けていたサポートが途切れた(あるいは設定が合わなくなった)ことで二酸化炭素が溜まり、意識を失った(CO2ナルコーシスなど)可能性が極めて高いため、医療用マスクを外し、手動のバッグ・バルブ・マスク(BVM)を用いて外から強制的に換気(空気を送り込む)を行い、肺のガス交換を再開させることが一分一秒を争う最優先の活動となります。

他の選択肢の分析(なぜ後回しになるのか)

  • 1 高濃度酸素投与: 酸素をただ口元に流したり、リザーバーマスクで吸わせたりする処置(経鼻や簡易マスク投与)は、「傷病者自身が十分な深さと回数で息を吸えていること」が前提です。本症例は自発呼吸が8回/分しかなく、意識もありません。ただ酸素を当てるだけでは肺の奥まで届かない(換気量が足りない)ため、BVMによる「加圧換気」が必要です。

  • 2 主治医への連絡 / 3 人工呼吸器の点検: これらは現場の状況把握や今後の搬送先選定において非常に重要ですが、「傷病者の命(バイタル)が維持できていること」が前提の行動です。目の前でSpO2 72%の傷病者を放置して機械を触ったり電話をかけたりしていては、その間に心停止(Asystoleなど)に至ってしまいます。これらは換気処置を他の隊員が開始した後に、並行して(あるいは車内移動中に)行うべきタスクです。

  • 4 静脈路確保および輸液: 「C(循環)」に対するアプローチです。本症例の血圧(100/80 mmHg)や脈拍(62/分)は、現在の超低酸素状態を考えると首の皮一枚で保たれている状態(このあと徐脈から心停止へ移行する直前)です。根本原因は「呼吸(B)」の破綻であるため、ルートを取る前にまず換気が最優先されます。

救急救命士としての臨床的視点:在宅医療機器トラブルへの構え

  1. 「機械を信じるな、傷病者を見ろ」: 在宅人工呼吸器(NPPVや気管切開を伴うTPPV)のトラブルで救急要請があった場合、現場で救急隊がアラームの原因(回路の外れ、結露、設定エラー、機械の故障など)をあちこち探して解決しようとするのは時間のロスです。「アラームが鳴って本人の状態が悪い = すぐに機械を外して自分たちの手で(BVMで)揉む(換気する)」が、臨床における絶対のルールです。

  2. ALS傷病者における換気時の注意点: ALS(神経難病)の傷病者は呼吸筋が著しく萎縮しているため、肺や胸郭が非常に硬くなっている(コンプライアンスの低下)ことがあります。BVMで換気を行う際は、無理に強い圧で揉み込むと肺を傷つける(気胸などの合併症)リスクがあるため、胸の上がり具合(目視)と、バッグを握る手の抵抗感(感触)を繊細に感じ取りながら、愛護的にかつ確実な換気を行います。

  3. 高濃度酸素の併用: BVM換気を行う際は、当然ながらバッグに酸素配管(毎分10L以上)を接続し、高濃度酸素をブレンドした状態で換気をします(選択肢1の「酸素投与だけ」とは異なり、「酸素を繋いだバッグでの換気」という意味になります)。これにより、72%まで下がったSpO2を速やかに安全圏内へと押し戻します。

まとめ:在宅人工呼吸器のアラーム + 完全な意識障害 + SpO2 72% = 超緊急の換気不全 = 機械をすぐ外してバッグ・バルブ・マスク換気を直ちに開始!」 臨床医学の基本である「救急のABC(まずは気道と呼吸!)」の優先順位を、在宅医療という現代的なシチュエーションを通して確認する、非常に実践的で重要な一問です。

第49回D問題 第13問 過換気症候群(過換気状態)における呼吸生理学的な変化と、血液ガスデータ(PaCO2)の動態を的確に結びつけられるかを問う問題

13 24歳の女性。新しい職場に就職したばかりで仕事に習熟することができず疲労が蓄積していた。仕事を終えて帰宅後、息苦しさと動悸とを感じ「息を吸っても吸っても空気が足りない。」、「このまま死んでしまうのではないか。」と不安になり、救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識清明。呼吸数40/分。脈拍66/分。血圧98/64 mmHg。体温36.2℃。SpO2値 100%(室内気)。呼吸音は正常である。心電図モニター波形(別冊No.8)を別に示す。

 この病態で予測されるPaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)はどれか。1つ選べ。

1 20 mmHg

2 40 mmHg

3 60 mmHg

4 80 mmHg

5 100 mmHg






解答 1


解説:過換気症候群の病態生理

傷病者は24歳の若年女性で、新しい職場でのストレスや疲労の蓄積を背景に、精神的な不安から急激な息苦しさを発症しています。

バイタルサインと所見を見ると、過換気症候群の典型的な特徴がすべて揃っています。

  • 呼吸数 40/分: 成人の正常な呼吸数(12~20回/分)を大幅に超える、著しい頻呼吸です。

  • SpO2 100%(室内気): 空気(21%の酸素)を吸っているだけで、血液中の酸素は100%満タンになっています(肺でのガス交換自体に問題がない証拠です)。

  • 呼吸音・心電図が正常: 気管支喘息や気胸などの器質的な呼吸器疾患、あるいは危険な不整脈など、体に物理的な異常がないことを示しています。

なぜ PaCO2 が 20 mmHg になるのか?

  • PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)の正常値は「約 40 mmHg」です。

  • 二酸化炭素(CO2)は、肺から息を吐き出すことによって体外へ排出されます。

  • 本症例のように、ハァハァと1分間に40回もの異常なハイペースで浅く速い呼吸(過換気)を繰り返すと、体内で作られる量をはるかに上回るスピードで、CO2が肺からドバドバと外へ吐き出されて(洗い流されて)しまいます

  • その結果、血液中の二酸化炭素が異常に少なくなり、PaCO2は正常値(40 mmHg)の半分近くである 20 mmHg あたりまで急激に低下します。

この状態を「呼吸性アルカローシス(血液がアルカリ性に傾く状態)」と呼び、これによって手足のしびれや硬直(テタニー)、さらなる不安感や頭痛が引き起こされます。

他の選択肢の分析

  • 2 40 mmHg: 健常者の正常値です。これだけ激しい頻呼吸をしている状態でCO2が正常値にとどまることはありません。

  • 3 60 mmHg / 4 80 mmHg / 5 100 mmHg: これらはすべて正常より高い状態、つまり「高CO2血症(CO2ナルコーシスなど)」の数値です。呼吸不全で息が十分に吐けなくなっている状態(例:COPDの悪化、重症喘息、意識障害による呼吸抑制など)で予測される数値であり、過換気とは真逆の病態です。

救急救命士としての臨床的視点:現場でのアプローチ

  1. ペーパーバッグ法は「原則禁忌」: かつては紙袋を口に当てて吐いた息(CO2)を吸わせる方法(ペーパーバッグ法)が行われていましたが、現在は救急現場では原則行いません。万が一、この過換気の原因が「心筋梗塞」や「肺塞栓症(エコノミークラス症候群)」などの命に関わる大病だった場合、袋をあてることで深刻な低酸素血症を引き起こし、傷病者を死に至らしめるリスクがあるためです(本症例はSpO2 100%ですが、現場でのルーチン化を防ぐ意味でも禁忌と教えられます)。

  2. 不安の受容と言語的アプローチ(コーチング): 傷病者は「このまま死んでしまうのではないか」とパニックに陥っています。まずは「大丈夫ですよ」「検査でも心臓や肺の音はとても綺麗ですからね」と安心感を与え、同調することが最大の治療です。 救急隊員が自分の呼吸を「吸ってー、吐いてー、スー、ハー」とゆっくり見せて真似をさせたり、数を数えさせたりして、呼吸数を20回/分以下に落ち着かせるよう誘導します。

  3. 器質的疾患の「除外」を怠らない: 「若い女性の精神的な息苦しさ=過換気症候群」と最初から決めつけるのは非常に危険です。前述の通り、肺塞栓症や気胸、糖尿病性ケトアシドーシス(代謝性アシドーシスの代償としての呼吸)などでも全く同じように激しい過換気になることがあります。聴診での左右差の確認、病歴の聴取、そして心電図モニターで虚血性変化(ST変化)がないかをしっかり確認するプロセスが、プロの救急救命士として求められます。

まとめ:過換気 = 息を吐きすぎて体内の二酸化炭素がスカスカになる(PaCO2低下) = 正常(40)の半分である 20 mmHg を選ぶ!」 バイタルサインの数字から体内のミクロな血液ガス(生理学)の動態をパーフェクトに読み解く、非常にスマートな良問です。


第49回D問題 第14問 大量吐血(消化管出血)を来した傷病者のバイタルサインから、現在の「推定出血量(ショックの重症度段階)」を正しく評価できるかを問う問題

14 40歳の男性。突然の悪心の後、トイレで大量の血液を嘔吐したため、家族が救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 2。呼吸数28/分。脈拍118/分、整。血圧120/100 mmHg。SpO2値 94%。四肢の蒼白と冷感を認める。腰痛のため2週前から鎮痛解熱薬を内服している。

 この傷病者の出血量は循環血液量の何%と推定されるか。1つ選べ。

1 15%未満

2 15~30%

3 30~40%

4 40~50%

5 50%以上


解答 2


解説:バイタルサインから見る出血の4段階(ATLS分類)

外傷や急性消化管出血における出血量とバイタルサインの関係は、国際的な救急医学基準であるATLS(Advanced Trauma Life Support)の分類(一般に体重70kgの成人を基準とする)に基づいて4つのステージに分けられます。

本症例のバイタルサインをこの基準に当てはめてみましょう。

出血の段階出血量(%)脈拍(回/分)血圧呼吸数(回/分)意識状態・その他
クラス I15%未満100未満正常14〜20正常、少し不安
クラス II15〜30%100〜120正常(保たれる)20〜30軽度の不安、頻呼吸、皮膚冷感
クラス III30〜40%120〜140低下30〜40意識障害(不穏・混乱)
クラス IV40%以上140以上著明な低下35以上昏睡・生命の危機

本症例のデータとの照合

  • 脈拍 118/分: クラス II(100〜120)の範囲にピタリと収まります。

  • 血圧 120/100 mmHg: 収縮期血圧(120)はまだ正常に保たれています。また、ショックの初期には交感神経が働いて末梢血管をすぼめるため、拡張期血圧(下)が上がり、脈圧(上の血圧と下の血圧の差)が狭くなる(20 mmHg)というクラス II 特有の兆候が出ています。

  • 呼吸数 28/分: クラス II(20〜30)の頻呼吸に合致します。

  • 四肢の蒼白・冷感、JCS 2: 血液の減少を補うために手足の血管が収縮しているサインです。

以上のことから、傷病者は「クラス II(出血量 15〜30%)」の代償期ショックにあると判断できます。

他の選択肢の分析

  • 1 15%未満(クラス I):

    献血(約400mL=循環血液量の約8〜10%)と同等か少し多い程度の出血です。この段階では、脈拍は100回/分を超えず、冷や汗や四肢冷感といった明らかなショック症状は出ません。

  • 3 30〜40%(クラス III) / 4・5(クラス IV):

    これ以上の出血量(クラス III 以降)になると、体が血管を縮めるだけの代償能力を超えてしまい、収縮期血圧が100 mmHgを大きく割り込んで低下(低血圧)します。また、脳への血流が維持できなくなり、意識障害もJCS 10〜100(不穏や傾眠)へと著しく悪化します。

救急救命士としての臨床的視点:薬の副作用と「隠れた重症度」

  1. NSAIDs(解熱鎮痛薬)による胃潰瘍の合併:

    エピソードにある「腰痛のため2週前から鎮痛解熱薬を内服」は、極めて重要な病歴です。ロキソプロフェンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、副作用として胃粘膜を保護する物質を減らしてしまうため、長期間飲むと「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」を引き起こし、そこから突然大出血(吐血)することが多々あります。

  2. 「血圧が正常」という罠(代償期ショック):

    救急現場で最も見落としやすいのが、「血圧が120あるからまだ大丈夫だろう」という油断です。若い人や元々高血圧の人は、血液が3割近く失われても、交感神経の力で血圧の数値を無理やり維持(代償)できます。

    しかし、この段階は崖っぷちの状態であり、これ以上1滴でも血が漏れれば、一気に坂道を転げ落ちるように血圧が崩壊(非代償期へ移行)します。「血圧の数値」ではなく、「脈拍の上昇(118)」「脈圧の短縮(差が20)」「手足の冷たさ」を敏感に察知し、重症として扱わなければなりません。

  3. 現場での体位管理と静脈路確保の準備:

    大量吐血の傷病者は窒息の危険が高いため、前述の通り「左側臥位」で管理します。また、いつでも医師に指示要請して輸液(特定行為)を開始できるよう、搬送中もバイタルサイン(特に心拍数と脈圧)の推移を秒単位で監視し続けます。

まとめ:

血圧は正常 + だけど脈拍110超え + 脈圧が狭い(差が20) = 体が必死に耐えている代償期ショック(出血量 15〜30%) = 崖っぷちの重症として急ぎ搬送!

血圧の数値だけに騙されず、複数のバイタルサインを立体的に組み合わせて体内の出血量をプロとして見立てる、極めて実戦的な良問です。

第49回D問題 第15問 急性心不全(急性肺水腫)の病態生理と、救急現場で行う基本的な体位管理「起坐位」が心臓に与える血液力学的な効果を問う問題です。

15 67歳の女性。昨夜から呼吸がしにくいと訴えていた。今朝になり血が混じったような痰が出たことから家族が心配になり救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 1。呼吸数24/分。脈拍110/分、整。血圧180/100 mmHg。SpO2値 86%。全肺野で水泡音を聴取する。喀出された痰を図(別冊No.9)に示す。

 この傷病者を起坐位にすることで最も期待される効果はどれか。1つ選べ。

1 後負荷の軽減

2 心拍数の増加

3 前負荷の軽減

4 循環血液量の増加

5 心筋収縮力の増加





解答 3


※ 救命士王から

 心不全時には、必ず起坐位を維持し搬出すること。CPAに移行するとしたら酸素欠乏よるものなので必ず高濃度酸素投与以上の酸素化を図る。換気量が少ないようであれば躊躇せずにBVM。座位を維持し、BVM換気しながらの搬出は苦慮するが訓練等での習熟が必要。必ず現場でCPAに移行する症例。躊躇せずにBVM。


解説:急性肺水腫と起坐位の効果

傷病者は高血圧(180/100 mmHg)を背景に、呼吸困難、著しい低酸素血症(SpO2 96%未満の86%)、全肺野での水泡音(湿性ラ音)、そして別冊画像にあるようなピンク色の「泡沫喀痰(ほうまつかくたん:泡立つ血性痰)」を認めています。これらはすべて、左心系のポンプ機能が破綻して肺に血液がうっ血し、水分が肺胞に染み出した「急性肺水腫(左心不全)」の教科書通りの典型的な所見です。

  • 3 前負荷の軽減(正解):

    • 前負荷(Preload)とは: 静脈を通って「心臓へと戻ってくる血液の量(静脈還流量)」、あるいはそれによって拡張した心室にかかる圧のことです。

    • なぜ座らせると楽になるのか: 傷病者を仰向け(臥位)のままにすると、下半身の血液が重力の制限なくドッと心臓に戻ってきてしまいます(前負荷の上昇)。ただでさえパンクしかけている左心室にこれ以上血液が戻ってくると、肺のうっ血がさらに悪化し、溺れるような息苦しさに襲われます。

    • そこで、体を起こして「起坐位(または半座位)」にすると、重力によって血液が下半身(腹部や下肢の静脈)にプールされ、心臓へ戻る血液の量(前負荷)が物理的に減少(軽減)します。これにより、肺のうっ血が一時的に和らぎ、呼吸が劇的に楽になります(これを起坐呼吸と呼びます)。

他の選択肢の分析

  • 1 後負荷の軽減: 後負荷(Afterload)とは、心臓が血液を全身に送り出すときに逆らう「血管の抵抗(末梢血管抵抗や血圧)」のことです。体位を起坐位にするだけでは、血圧そのものを直接大きく下げる(後負荷を減らす)効果は弱いです。後負荷を下げるには、病院でのニトログリセリンなどの血管拡張薬の投与が主役となります。

  • 2 心拍数の増加 / 5 心筋収縮力の増加: これらは心臓の頑張りを増やす方向の変化です。急性心不全の心臓はすでに脈拍110/分と限界までオーバーワークしているため、これ以上心拍数や収縮力を増やす(酸素消費量を増やす)ことは、心臓をさらに疲弊させるため治療の目的とはなりません。起坐位による静脈還流の減少は、むしろ心臓の負担を減らす方向に働きます。

  • 4 循環血液量の増加: 体位を変えても、体の中を流れる全体の血液量(循環血液量)そのものが増えるわけではありません。

第49回D問題 第16問 突然発症した局所神経症状(共同偏視、片麻痺、顔面麻痺)から、脳卒中の責任病巣(大脳のどちらの半球がやられているか)を解剖学・生理学のロジックに基づいて見抜く問題

16 45歳の男性。突然意識が悪くなったため、家族が救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 30。呼吸数16/分。脈拍80/分、整。血圧204/110 mmHg。SpO2値 96%(室内気)。瞳孔は両側とも3mm、対光反射迅速。右共同偏視、左上下肢の完全麻痺および左顔面麻痺を認める。家族から糖尿病と高血圧とで病院に通院していることを聴取した。

 この傷病者で疑われる病変部位はどれか。1つ選べ。

1 右大脳半球

2 左大脳半球

3 小脳

4 橋

5 延髄


解答 1


解説:偏視と運動麻痺のクロス(交差)ロジック

傷病者の背景と、バイタルサインにおける著しい高血圧(204/110 mmHg)、JCS 30の意識障害、そして典型的な局所神経症状から、右大脳半球の急性脳卒中(脳出血や脳梗塞など)と判断できます。

この問題を解く鍵は、「目の向き(偏視)」「手足の麻痺」の関係性にあります。

  • 左上下肢の完全麻痺 + 左顔面麻痺(錐体路の交差):

    • 脳の運動神経の通り道(錐体路:すいたいろ)は、延髄のあたりで左右が入れ替わり(錐体交差)、反対側の手足を支配します。

    • 本症例では「左側」の手足および顔面が麻痺しているため、運動の命令を出している大元である「右側の脳(右大脳半球)」に障害があることが分かります。

  • 右共同偏視(みぎきょうどうへんし):

    • 共同偏視とは、両方の目が揃ってどちらか一方の隅をじっと睨みつけてしまう(視線が固定される)症状です。

    • 大脳(前頭葉の側方注視中枢)に破壊的な病変(脳出血や脳梗塞)が起きると、目は「病変のある側(やられている脳の側)を睨む」という特性があります。

    • 本症例では「右側」を睨んでいる(右共同偏視)ため、やはり右大脳半球に病変があるという事実と完全に一致します。

他の選択肢の分析

  • 2 左大脳半球: もし左大脳半球の障害であれば、神経の交差により「右上下肢の麻痺・右顔面麻痺」が起こり、目は病変側である「左共同偏視」を呈するため、本症例とは真逆になります。

  • 3 小脳: 前問(第20問)で触れた通り、小脳の障害では「腕が思い通り動かない(運動失調)」や「激しいめまい」「言葉のもつれ(構音障害)」が主症状となります。本症例のような、顔面を含んだ明確な「片側の完全麻痺」や強い「共同偏視」を来すことはありません。

  • 4 橋(きょう) / 5 延髄(えんずい): これらは「脳幹(のうかん)」と呼ばれる部位です。

    • 特に「橋」の出血(橋出血)は国試の超頻出疾患ですが、ここがやられると、目は病変と「反対側」を睨む(病巣対側偏視)ため左を向くことになります。さらに、瞳孔が2mm以下に極めて小さくなる「ピンポイント・プピル(針尖瞳孔)」や、両手足が全て麻痺する「四肢麻痺」、あるいはJCS 300の「深昏睡」に陥るのが特徴です。

    • 本症例は瞳孔3mm(正円・同大)、対光反射迅速であり、意識もJCS 30にとどまっているため、脳幹ではなく「大脳(皮質下・内包付近)」の病変であると否定できます。

救急救命士としての臨床的視点:脳卒中スケールとt-PAへの時間管理

  1. 現場での脳卒中スケール(CPSSやISLS)の活用: 救急隊は現場で「顔面の非対称(顔面麻痺)」「片側の腕の下垂(上肢麻痺)」「発話の異常」の3つを評価するシンシナティ脳卒中スケール(CPSS)などを実施します。本症例は、これらを完全に満たす典型的な脳血管障害です。

  2. 「右脳の脳卒中」で見落としがちな症状: 左の脳(優位半球)がやられると「言葉が出なくなる(失語症)」が前面に出るため家族も異変に気づきやすいですが、本症例のような右の脳(劣位半球)の障害では、失語症が出ない代わりに、自分の麻痺に気づかない(病態失認)や、左側にあるものを見落とす(半側空間無視)といった特殊な高次脳機能障害を合併することがあります。意識障害(JCS 30)があるため今回は評価が難しいですが、右脳病変の特徴として知識を持っておくことが重宝されます。

  3. 発症時刻(Last Known Well)の確定: 脳梗塞であった場合、超急性期治療である t-PA(血栓溶解療法) は発症から4.5時間以内、カテーテルによる 血管内皮塞栓回収術 は24時間以内など、治療のタイムリミットが厳格に決まっています。家族から「最後に元気な姿を見たのは何時何分か」を秒単位で聴取し、直ちに脳神経外科・脳卒中専門医が待機する病院(ストロークセンター)を選定して搬送します。

まとめ:左側の麻痺(手足・顔) + 右側を睨む目(共同偏視) = 右大脳半球の病変(脳卒中) = タイムリミットを意識して脳外科専門病院へ!」 解剖学的な神経の交差と、眼球偏視のルールを組み合わせることで、CTを撮る前の現場の段階で病変の位置をピタッと特定できる、臨床の面白さが詰まった一問です。

第49回D問題 第17問 心停止(PEA)の傷病者に対する最新の心肺蘇生(CPR)アルゴリズムと、救急救命士の特定行為(薬剤投与)の優先順位を問う問題

17 49歳の男性。食事中に突然倒れたところを同僚が目撃し救急要請した。

救急隊到着時観察所見:呼びかけに反応しない。自発呼吸は認めない。頸動脈は触知しない。胸骨圧迫とバッグ・バルブ・マスク換気とを開始し換気良好である。モニター心電図で無脈性電気活動(PEA)と判断した。

 次に行う対応はどれか。1つ選べ。

1 異物除去

2 背部叩打法

3 電気ショック

4 気管挿管の指示要請

5 アドレナリン投与の指示要請


解答 5


※救命士王から

ガイドラインにもPEA時の早期アドレナリン投与は効果あることが示されている。原則現場でのアドレナリン投与とし、活動としても早期アドレナリン投与を主眼とした活動が望ましい。なお、ABCアプローチから、PEA時においてもBVM換気に抵抗があれば器具による気道確保が優先される。


解説:PEA(無脈性電気活動)における最優先アルゴリズム

傷病者は食事中に突然倒れ、救急隊到着時に心停止(呼びかけ反応なし、自発呼吸なし、頸動脈触知なし)の状態です。

  • 5 アドレナリン投与の指示要請(正解):

    • PEAへのアプローチ: モニター心電図の波形が 無脈性電気活動(PEA) と判断されています。PEA(および心静止:Asystole)は、電気ショックの適応がない波形(Non-shockable)です。

    • 1分1秒を争う薬剤投与: JRC(日本蘇生協議会)ガイドラインにおいて、電気ショックの適応がない波形(PEA/心静止)に対しては、「発見・認識後、可能な限り早期(できれば最初のリズムチェック後直ちに行う)のアドレナリン投与」が、自己心拍再開(ROSC)および生存退院率を上げるために極めて強く推奨されています。そのため、直ちにビデオ通話や電話等で医師に指示要請を行うことが最優先されます。

他の選択肢の分析(優先順位のロジック)

  • 1 異物除去 / 2 背部叩打法: 「食事中に突然倒れた」というエピソードから窒息(気道異物)も一瞬疑われますが、観察所見に「バッグ・バルブ・マスク換気を開始し、換気良好である」と明記されています。空気がしっかり肺に入っている(胸が上がっている)ということは、完全に気道が塞がっているわけではない(あるいは心原性など別の原因の心停止)と証明されているため、異物除去の処置を行う必要はありません。

  • 3 電気ショック: 電気ショック(除細動)の絶対適応となる波形は、「心室細動(VF)」「無脈性心室頻拍(pulseless VT)」の2つ(Shockable波形)だけです。本症例のPEAに対して電気ショックを行うことは効果がないだけでなく、胸骨圧迫の手を止める時間を増やしてしまい不適切(禁忌)です。

  • 4 気管挿管の指示要請: 高度な気道管理(気管挿管や声門上気道デバイス)も重要な特定行為ですが、現在はバッグ・バルブ・マスクで「換気良好」に管理できています。JRCガイドラインの優先順位としては、換気ができている状態であれば、気道管理器具の挿入よりも「アドレナリンの早期投与」の方が優先度(タイムクリティカル度)が高いとされています。

救急救命士としての臨床的視点:アドレナリンの「包括的指示」と「個別指示」

  1. 特定行為の要件確認: 救急救命士が心停止傷病者にアドレナリンを投与するためには、「静脈路(ルート)が確保できていること」が必要です。現場の動きとしては、胸骨圧迫と換気を絶え間なく続けながら、速やかに静脈路確保を行い、医師に指示要請をしてアドレナリン(1回1mg)を3〜5分おきに投与します。

  2. PEAにおける「4H・4T」の検索: アドレナリンを投与しつつ、救急隊は「なぜPEAになったのか?」という原因(可逆的な病態)を移動中の車内で推測し、病院へ引き継ぐ必要があります。代表的な原因(4H・4T)には以下があります。

    • 低酸素症(Hypoxia):異物や窒息など

    • 低体温(Hypothermia)

    • 低流動量・低血量(Hypovolemia):大出血や脱水

    • 高/低カリウム血症など代謝異常(Hydrogen ion / Hyper-Hypokalemia)

    • 心タンポナーデ(Tamponade, cardiac)

    • 緊張性気胸(Tension pneumothorax)

    • 血栓症:心筋梗塞や肺塞栓(Thrombosis)

    • 中毒(Toxins)

  3. 心肺蘇生の質(High-Quality CPR)の維持: アドレナリンの要請や投与に気を取られて、胸骨圧迫の深さ(5〜6cm)、テンポ(100〜120回/分)、絶え間なさ(中断を最小限にする)がおろそかになっては本末転倒です。チームの連携で役割分担を明確にし、質の高いCPRをキープします。

まとめ:心停止波形がPEA(ショック不要) + 換気はすでに良好 = 救命率をあげるために『一刻も早いアドレナリン投与の指示要請』が最優先!」 ガイドラインが「早期のアドレナリン」の重要性をどれだけ強調しているかをストレートに問う、救命士国試の定番かつ極めて重要な問題です。

第49回D問題 第18問 清涼飲料水の大量摂取を背景に発症した致死的な代謝性救急疾患「ペットボトル症候群(高度の糖尿病性ケトアシドーシス:DKA、または高浸透圧高血糖状態:HHS)」の病態と身体所見を問う問題

18 35歳の男性。自室で意識を失っているのを家族が発見して救急要請した。

救急隊到着時観察所見:意識JCS 100。呼吸数24/分。脈拍96/分、不整。血圧108/74 mmHg。体温36.5℃。SpO2値 92%。果物臭(アセトン臭)の息がした。四肢の麻痺は認めない。家族から「(傷病者は)毎日清涼飲料水を2-3Lほど摂取していた。」と聴取した。

 この傷病者で認められる所見はどれか。1つ選べ。

1 貧血

2 低血糖

3 瞳孔不同

4 皮膚乾燥

5 血圧の左右差


解答 4


解説:ペットボトル症候群と高度脱水のメカニズム

傷病者の背景(毎日清涼飲料水を2〜3L摂取)と、特徴的な呼気(果物臭・アセトン臭)、および意識障害(JCS 100)から、極めて高度な高血糖状態に陥っていると判断できます。

  • 4 皮膚乾燥(正解):

    • 浸透圧利尿による極度の脱水: 血液中の糖分が異常な高値になると、腎臓は過剰な糖を尿として外へ排出しようとします。その際、糖が強力な水分引き込み役(浸透圧)となるため、体内の水分が大量の尿として奪われます(浸透圧利尿)。

    • 細胞内・皮膚の乾燥: 数リットルレベルの水分が失われるため、体はカラカラの「重度脱水状態」に陥ります。救急隊が皮膚に触れると「カサカサに乾燥している」、あるいは皮膚を引っ張ると元に戻りにくい(皮膚緊張度:ツルゴールの低下)、口の中の粘膜が乾燥している、といった所見が非常に顕著に現れます。

他の選択肢の分析(糖尿病性昏睡のバイタル)

  • 1 貧血: 高血糖やケトアシドーシスの直接的な所見ではありません。むしろ、脱水によって血液が濃縮されるため、検査値上は一見、赤血球やヘモグロビンが「高く」見えることがあります(相対的多血)。

  • 2 低血糖: 病態は真逆の「著しい高血糖」です。糖分の多い清涼飲料水をガブ飲みし続けたことで、インスリンの分泌や働きが追いつかなくなり、血糖値が数百〜1,000 mg/dL以上に跳ね上がっています。

  • 3 瞳孔不同 / 5 血圧の左右差: これらは「脳ヘルニア(頭蓋内病変)」や「大動脈解離」など、解剖学的な左右非対称の異常(局所神経症状や血管の物理的閉塞)を疑うサインです。本症例のような代謝(血液全体の異常)による意識障害では、瞳孔は通常正円・同大であり、血圧に明らかな左右差が出ることはありません。

救急救命士としての臨床的視点:アセトン臭と呼吸様式

  1. 「アセトン臭」は脂肪が燃えた燃えカス: インスリンが効かなくなると、体は血糖(糖分)をエネルギーとして使えなくなります。代わりに「脂肪」をエネルギーとして無理やり分解し始めますが、その時にできる副産物が「ケトン体(アセトン)」です。これが血液に溢れて息から排出されるため、マニキュアの除光液や腐ったリンゴに似た果物臭(アセトン臭)がします。

  2. クスマウル呼吸(大呼吸)への警戒: ケトン体は「酸性」の物質であるため、血液が強い酸性に傾きます(ケトアシドーシス)。体は酸性を中和するために、息を大きく激しく吐き出して二酸化炭素(酸性物質)を外へ逃がそうとします。本症例の呼吸数24/分、あるいは「深く、大きな呼吸をハァハァと規則正しく続ける(クスマウル呼吸)」は、この代謝性アシドーシスを代償しようとする特異的な呼吸様式です。

  3. 救急隊による血糖測定の重要ステップ: JCS 100の意識障害があるため、救急救命士は車内収容後、プロトコールに基づき「特異的機能障害(意識障害)」として血糖測定を行います。測定器の画面に「High(測定不能なほどの高血糖)」と表示されたり、この清涼飲料水のエピソードがあれば、直ちに大量の輸液(細胞外液)が必要な重症代謝救急として、内分泌・代謝内科のある総合病院へ搬送します。

まとめ:清涼飲料水の大量摂取 = ペットボトル症候群(高血糖) = 体がカラカラになる『高度脱水(皮膚乾燥)』 + 息がリンゴ臭(アセトン臭)!」 日常の生活習慣の聴取と、五感(臭い、皮膚の触感)での観察が、内科的昏睡の正体を見破る決定打になる良問です。

第49回D問題 第11問 特徴的なエピソード(長期臥床、下肢の浮腫・疼痛、排便・離床後の突発症状)から、エコノミークラス症候群として知られる「急性肺血栓塞栓症(肺塞栓症)」の病態を完全に見抜く、国試・臨床ともに超重要となる問題

11 68歳の女性。新型コロナウイルス感染症に罹患し、数日前から臥床が続き、左下肢のむくみを認めていた。本日トイレに行った後から急に息苦しくなり、救急要請した。  救急隊到着時観察所見:意識JCS 2。呼吸数36/分。脈拍120/分。血圧76/52 mmHg。体温38.0℃。Sp...