30 20歳の女性。腹痛と性器出血とを認め、本人が救急要請した。
救急隊到着時観察所見:意識清明。呼吸数20/分。脈拍92/分、整。血圧120/60 mmHg。3分毎の強い腹痛を訴え、腹部は膨隆している。本人は妊娠していることを認識しているが、一度も医療機関を受診していないとのことである。
本人からまず聴取すべき情報はどれか。1つ選べ。
1 喫煙
2 職業
3 手術歴
4 最終月経
5 パートナーの有無
解答 4
解説:妊娠週数の推定と分娩進行の予測
正解は4(最終月経)です。
傷病者の背景(20歳女性、未受診妊婦)と、「3分毎の強い腹痛(陣痛の可能性)」および「腹部膨隆」の所見から、いつ生まれてもおかしくない臨月の分娩進行状態、あるいは切迫流産・早産などの産科的超緊急事態であると判断します。
4 最終月経:
妊娠週数の把握: 医療機関を一度も受診していないため、現在妊娠何週目なのか(正期産なのか、早産なのか)という情報が一切ありません。最終月経の開始日(または出産予定日)を聴取することで、おおよその妊娠週数を逆算・推定することができます。
対応の決定: 妊娠週数が分かれば、「正期産(37週以降)の正常分娩が近いのか」「20週未満の流産・異常出血なのか」など、この後現場や車内で起こり得る事態(新生児蘇生の準備が必要か、など)を予測し、受け入れ病院(総合周産期母子医療センターなど)を選定するための最も重要な材料となります。
他の選択肢の分析
1 喫煙 / 2 職業: これらは妊婦健診などの長期的な健康管理において聴取すべき生活背景です。「3分間隔の激痛」を訴え、今まさに分娩が進行している可能性のある救急現場で、最初に聞くべき優先度は極めて低いです。
3 手術歴: 過去に帝王切開の経験(既往帝王切開)がある場合、陣痛によって子宮破裂を起こすリスクがあるため重要な情報ではありますが、そもそも「現在の妊娠がどの段階にあるか(週数)」という大前提が分からない状態では、まず最初に聴取すべきは最終月経となります。
5 パートナーの有無: 社会的背景や同意権の観点で後に確認することはありますが、目の前の母子の生命維持や分娩対応に直結する医学的情報ではないため、ファーストステップとしては不適切です。
救急救命士としての臨床的視点:未受診妊婦(院外分娩)への構え
「3分間隔」は車内出産の高リスクサイン: 腹痛が「3分毎」に規則的に訪れているということは、すでに分娩の第1期(開口期)の終盤から第2期(娩出期)に移行している可能性が高いです。救急隊は、病院への搬送途上での「車内出産」を強く意識し、産科セット(臍帯クリップ、滅菌剪刀、保温用シーツなど)を直ちに手元に準備します。
病院選定の難しさ: 産科未受診の妊婦は、感染症(HIV、B型・C型肝炎、梅毒など)の有無が不明であることや、胎児の正確な状態が分からないことから、一般的な産婦人科個人医院では受け入れが困難なケースが多いです。そのため、救急隊はNICU(新生児集中治療室)や母体胎児集中治療室(MFICU)を備えた総合周産期母子医療センターや大病院へ速やかにファーストコールを行います。
現場での確認事項(追加): 最終月経と併せて、「陣痛の開始時間」「破水の有無(生温かい液体がドバッと出たか)」「いきみたい感じ(便意)があるか」を素早く聴取します。「いきみたい感じ」がある場合は、すでに児頭(赤ちゃんの頭)が骨盤腔内まで降りてきているサイン(挙児縦律)であり、搬送開始を急ぐか、その場での出産介助に切り替えるかの重大な分岐点となります。
まとめ: 「未受診妊婦 + 3分間隔の腹痛 = 分娩直前の超緊急事態 = まず最終月経で週数を推定 + 出産準備をして周産期センターへ!」 母子2人の命を預かる救急活動において、時間軸(週数)の把握はすべてのトリアージの出発点です。


