第6問は、外傷救護の標準プロトコール(JPTECなど)に基づき、傷病者の受傷機転と身体所見から、「本当に必要な処置」と「ルーチンで行うべきではない処置」を正確に選別できるかを問う、きわめて実践的な問題です。
正解は 4 D(脊椎運動制限:SMR) です。
解説:受傷機転の評価と固定(SMR)の適応
傷病者は21歳の若い男性で、ナイフによる「大腿部の刺創(鋭的外傷)」を負っています。救急隊が行った一連の対応(A〜E)のうち、Dの脊椎運動制限(バックボードによる固定)だけが、この症例において「必要ない(むしろ不適切)」と判断されます。
4 D(脊椎運動制限:SMR)が必要ない理由:
適応の不一致: 脊椎運動制限(SMR: Spinal Motion Restriction)は、高所転落、交通事故、重いものの下敷きといった「体幹に大きな衝撃(軸圧や過伸展・過屈曲)が加わる高エネルギー鈍的外傷」において、脊髄損傷を悪化させないために行うものです。
鋭的外傷における例外: 本症例のようなナイフによる刺傷や銃創などの「体幹・四肢の鋭的外傷(穿通外傷)」では、脊椎への直接的な力(墜落などの衝撃)が加わっていない限り、原則として脊椎固定(バックボードの固定)は推奨されません。
固定によるデメリット: 不要なバックボード固定を行うことは、現場滞在時間を無駄に延ばすだけでなく、背部創の見落としに繋がったり、傷病者の呼吸を苦しくさせたり、痛みを増強させるなど、デメリットの方が上回ります。
他の選択肢(すべて必須の適切な対応)の分析
1 A(創部の圧迫止血): 大腿部から「拍動を伴う活動性出血」を認めています。これは主要な動脈(大腿動脈など)が損傷している絶対的なサインであり、放置すれば数分で出血性ショック死に至るため、最優先で直接圧迫止血(または止血帯:ターニケットの適応)を行います。外傷救護における「X(致命的出血の制御)」の原則です。
2 B(高流量酸素投与): 呼吸数32/分(頻呼吸)であり、大出血による「出血性ショックの初期(代償期)」に入っています。組織の酸素欠乏を防ぐため、リザーバー付きマスクによる高流量酸素投与は必須です。
3 C(全身観察): 本人が大腿部を押さえていても、他に刺された場所(胸部や腹部、背部など)が隠れている可能性があります(複数箇所を刺されているリスク)。服を切り開いて全身をくまなく目視する全身観察は絶対に省略できません。
5 E(救命救急センターの選定): 大腿動脈損傷が疑われる活動性外傷出血であり、一刻を争う緊急血管結紮術や輸血、外科的介入が必要です。専門の外科・救急医が揃う救命救急センターへの即時搬送(ロード&ゴー)の選択は100%正しいです。
救急救命士としての臨床的視点:外傷現場での「思考の硬直」を防ぐ
「外傷 = とりあえずバックボード」からの脱却: 一世代前の救急活動では、外傷があれば判で押したようにバックボードに縛り付ける活動が見られましたが、現在の国際基準および国内プロトコール(JPTEC)では、「不必要な固定は百害あって一利なし」として、受傷機転とNEXUSルール等のクリア基準に基づいた厳格な適応判断(SMRの至適化)が徹底されています。
直接圧迫で止まらない場合のバックアップ: 本症例は大腿部(四肢)の動脈性出血です。もし手による力いっぱいの直接圧迫止血でも血が止まらない(あるいは手足がズタズタで圧迫できない)場合は、迷わず止血帯(ターニケット)を創部より中枢側(付け根側)に強固に巻き付け、拍動と出血が完全に止まるまで締め上げる手順が車内・現場で即座に展開されます。
まとめ: 「ナイフの刺し傷(鋭的外傷) + 脊椎への強い衝撃なし = 首や背中をガチガチに固定(SMR)する必要はなし = それよりも1秒でも早く血を止めて(圧迫止血)、手術室へ直行(救命センター選定)せよ!」 教科書通りのルーチンワークに縛られず、傷病者の受傷機転に合わせて本当に必要な処置をトリアージできるかを問う、非常に洗練された良問です。
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