3 薬物過量服用の26歳男性を救急搬送した。救急要請したのは傷病者の母親であった。現場到着すると、傷病者は病院搬送されることに不服を唱え、母親を罵倒していた。状況聴取のため傷病者に近づくと、突然顔面を殴られた。その後長時間説得を行い、傷病者は搬送に同意した。
その1か月後から、(A)特に契機なくそのことが繰り返し脳裏に浮かび、(B)思い出すたび胸苦しくなって気分が悪くなった。(C)そのことについて署で話すことに嫌悪を感じ、(D)薬物過量服用傷病者の出場指令の時には出場したくない気持ちになった。(E)些細なことにいらだち、小さな物音にも過敏に反応するようになった。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の覚醒症状に該当するのはどれか。1つ選べ。
1 A
2 B
3 C
4 D
5 E
解答 5
解説:PTSDの4大症状と「覚醒症状」の定義
救急隊員が現場で暴力を受けるなど、強い恐怖や生命の危険を感じるトラウマ(心的外傷)を経験した後に発症するPTSDには、主に4つの中心的な症状の柱があります。
精神医学の診断基準(DSM-5)に基づき、それぞれの記述(A〜E)がどの症状に分類されるかを整理すると以下のようになります。
| 選択肢 | 症状の記述 | PTSDの症状分類 | 解説 |
| 1 (A) | 特に契機なくそのことが繰り返し脳裏に浮かぶ | 侵入症状(フラッシュバック) | 自分の意志とは無関係に、当時の記憶や映像が鮮明に蘇ってしまう症状です。 |
| 2 (B) | 思い出すたび胸苦しくなって気分が悪くなった | 侵入症状に伴う生理的反応 | 記憶が蘇った際に、動悸や胸苦しさといった身体的なストレス反応が出る状態です。 |
| 3 (C) | そのことについて署で話すことに嫌悪を感じる | 回避症状 | トラウマに関連する思考、感情、またはそれについて話すことを極力避けようとする行動です。 |
| 4 (D) | 薬物過量服用傷病者の出場指令の時には出場したくない気持ちになった | 回避症状(状況の回避) | 当時と類似した状況や場所、指令(トリガー)から物理的・心理的に距離を置こうとする反応です。 |
| 5 (E) | 些細なことにいらだち、小さな物音にも過敏に反応するようになった | 過覚醒症状(覚醒度と反応性の著しい変化) | 神経が常に張り詰め、警戒態勢が解けない状態です。**「イライラ」「過剰な驚愕反応(物音に過敏)」「不眠」**などがこれに該当します。 |
したがって、明確に「過覚醒(かかくせい)」の状態を示している E(選択肢5) が正解となります。
救急救命士としての臨床・職場管理の視点:現場の安全とピアサポート
現場における「安全管理」の再徹底:
本症例では「病院搬送に不服を唱え、母親を罵倒していた」という明確な興奮・不穏状態のサイン(MISTなどの不穏評価)がありました。精神科救急や薬物中毒、酩酊事案などでは、傷病者が突然攻撃的になるリスクを常に予期しなければなりません。不用意に間合い(パーソナルスペース)を詰めず、必要に応じて警察官の臨場(現場同行)を躊躇なく要請するなど、隊員の身の安全を最優先にする活動(シーンサーベイ)が臨床でも鉄則です。
身体の傷だけでなく「心の傷」への即時介入:
もし隊員が暴言・暴力を受けたり、悲惨な現場(小児の心停止や凄惨な交通外傷など)を経験した場合は、周囲のサポートが不可欠です。事案終了直後に、チーム内で事実や感情を共有して整理するデブリーフィング(ピアサポート)を適切に行い、ストレスを一人で抱え込ませない職場環境づくり(ストレスマネジメント)が現代の消防組織において極めて重要視されています。
症状が続く場合の適切な受診:
こうしたトラウマによる症状(眠れない、イライラする、出場指令の音が怖いなど)が「1か月以上」持続し、日常生活や業務に支障が出ている場合がPTSDの目安となります。気合や根性で解決しようとせず、速やかに産業医や精神科・心療内科などの専門医療機関に繋げる体制が、組織の安全管理として求められます。
まとめ:
「トラウマ後に神経が尖りっぱなしになる = 神経過敏やイライラ = 『過覚醒症状(E)』の兆候 = 隊員のメンタルヘルスケアを最優先せよ!」
救急活動の医学的知識だけでなく、隊員自身の身を守り、持続可能な活動を維持するための重要な労務・安全管理の知識を問う、現代の救急医療において非常に今日的な価値を持つ一問です。
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