2026年6月28日日曜日

第49回D問題 第4問 意識障害を伴う超重症傷病者に対し、現場の救急隊が「今、何よりも最優先で介入すべき致命的な異常(Killer Symptom)はどれか」を瞬時に見極める、救急医学のABCDEアプローチ(初期的評価)の基本かつ最重要の原則を問う問題

4 54歳の男性。慢性腎不全で透析を週3回行っている。自宅で倒れているところを家族が発見して救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 200。呼吸数6/分、失調性。脈拍60/分、整。血圧200/120 mmHg。SpO2値 93%。瞳孔は左右ともに2mmで対光反射はなかった。

 直ちに行うべき対応はどれか。1つ選べ。

1 気道吸引を行う。

2 補助換気を行う。

3 AEDパッドを貼付する。

4 酸素(10L/分)を投与する。

5 声門上気道デバイスの指示要請を行う。


解答 2


解説:なぜ「補助換気(Bへの介入)」が最優先なのか

救急現場における評価・処置の絶対原則は「生命の危機に直結する異常(A:気道、B:呼吸、C:循環)から順番に治療する」というルールです。本症例のバイタルサインをこの優先順位に当てはめて評価します。

  • 2 補助換気を行う(正解):

    • 呼吸の致命的異常(Bの破綻): 傷病者の呼吸状態を見ると、「呼吸数6/分、失調性」となっています。成人の正常な呼吸数は12〜20/分であり、6/分は極端な徐呼吸(呼吸が遅すぎる状態)です。さらに「失調性呼吸」は、脳幹にある呼吸中枢が重大なダメージを受けているときに出現する異常な呼吸パターンであり、放っておけば数分以内に呼吸停止、続いて心停止(非対称性心停止)に至る超危険な状態です。

    • ただちにBへの介入: SpO2が93%と低下しているだけでなく、この呼吸数では体内の二酸化炭素を全く排出できず、重篤な二酸化炭素貯留(高炭酸ガス血症)と進行性の酸欠に陥っています。リザーバーマスクで酸素を当てるだけ(自発呼吸に頼る方法)では全く換気量が足りないため、救急隊の手でバッグバルブマスク(BVM)を用いた人工呼吸(補助換気)を今すぐ開始しなければなりません。

他の選択肢の分析(なぜ最優先ではないのか)

  • 1 気道吸引を行う(Aの介入): 気道(喉や口の中)に唾液や嘔吐物、血液などが詰まってゴロゴロ音がしている(吸気時喘鳴)ような所見(Aの閉塞)があれば吸引が必要ですが、本症例の観察所見には「気道閉塞や分泌物の貯留」を示唆する記載はありません。

  • 3 AEDパッドを貼付する(Cの介入): AED(自動体外式除細動器)のパッドを貼る、あるいは心電図モニターをつけるのは「循環(C)」の評価・対応です。本症例は「脈拍60/分、整」「血圧200/120 mmHg」と、心臓はまだしっかりと動いており、心停止(VF/Pulseless VTなど)ではありません。今やるべきは、心停止に「させない」ための呼吸管理(Bへの介入)です。

  • 4 酸素(10L/分)を投与する(Bの介入): 前述の通り、本症例は「呼吸数が6回しかなく、しかも呼吸の深さやリズムがバラバラ(失調性)」です。これではいくらマスクで高濃度の酸素を口元に流しても、肺の奥(肺胞)まで酸素を吸い込むことができません。マスクを当てるのではなく、空気を押し込んであげる「補助換気」が必要です。

  • 5 声門上気道デバイスの指示要請を行う(特定行為): JCS 200の深昏睡であり、呼吸不全があるため、将来的に声門上気道デバイス(i-gelやLMAなど)による「高度な気道管理」を行うことは間違いではありません。しかし、これは「医師の具体的な指示」が必要な特定行為であり、電話をかけて要請している間にも傷病者は酸欠で心停止してしまいます。指示要請を行う前に、まずは手元のバッグバルブマスクですぐにできる補助換気を行い、酸素化を維持するのが鉄則です。

救急救命士としての臨床的視点:この傷病者の背景に潜む病態

国試の応用として、この傷病者が「なぜこのような状態になったのか」の臨床推理(プロブレムリスト)も頭に浮かべる必要があります。

  1. 慢性腎不全(透析週3回)というキーワード: 透析患者さんが自宅で昏睡・失調性呼吸・血圧200 mmHgで倒れている場合、救命士が最も警戒すべき病態は以下の2つです。

    • 頭蓋内出血(脳出血・くも膜下出血): 透析患者さんは動脈硬化が進みやすく、シャント維持のために抗凝固薬(血をサラサラにする薬)を飲んでいることが多いため、脳出血のリスクが非常に高いです。血圧200 mmHgや失調性呼吸、対光反射消失は、脳出血による脳幹圧迫(脳ヘルニア)の進行を強く疑わせます。

    • 重症高カリウム血症: 透析と透析の間にカリウムが溜まると、致死的な不整脈を引き起こします。本症例は脈拍60/分と保たれていますが、いつ心停止(心静止やテント状T波からのVF)に移行してもおかしくありません。

  2. 現場活動の流れ: 隊長が「補助換気開始!」と指示を出し、隊員がBVMで換気を始めて酸素化(SpO2と顔色)の維持を図ります。それと同時に、もう一人の隊員が医療機関選定(脳外科・透析対応が可能な救命センター)を進め、車内収容後は医師への特定行為(静脈路確保や気道管理)の指示要請を並行して行います。

まとめ:JCS 200 + 呼吸数6回(失調性) = 今すぐ呼吸が止まる超危険サイン = 指示要請やただの酸素投与ではなく、手元のバッグで今すぐ『補助換気』を開始せよ!」 救急外傷・内科を問わず、すべての救急活動の根幹である「生命維持のための優先順位(ABCの原則)」を徹底できているかを試す、国試必修レベルの極めて重要な一問です。

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