2026年6月13日土曜日

第49回D問題 第11問 特徴的なエピソード(長期臥床、下肢の浮腫・疼痛、排便・離床後の突発症状)から、エコノミークラス症候群として知られる「急性肺血栓塞栓症(肺塞栓症)」の病態を完全に見抜く、国試・臨床ともに超重要となる問題

11 68歳の女性。新型コロナウイルス感染症に罹患し、数日前から臥床が続き、左下肢のむくみを認めていた。本日トイレに行った後から急に息苦しくなり、救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 2。呼吸数36/分。脈拍120/分。血圧76/52 mmHg。体温38.0℃。SpO2値 75%。異常呼吸音を聴取しない。外頸静脈怒張を認め、左ふくらはぎの痛みを訴える。心電図モニター波形(別冊No.7)を別に示す。酸素投与を行い搬送開始したが、容態変化し心肺機能停止状態となったため心肺蘇生を開始した。

 心肺機能停止の直接の原因として最も考えられるのはどれか。1つ選べ。

1 急性心筋梗塞

2 肺血栓塞栓症

3 うっ血性心不全

4 ウイルス性肺炎

5 ウイルス性心筋炎





解答 2


解説:深部静脈血栓症(DVT)から肺塞栓症(PTE)への機序

傷病者は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」に罹患し、数日前から寝たきり(臥床)が続いていました。この背景と観察所見をパズルのように組み合わせると、1つの致命的なストーリーが完成します。

  • 2 肺血栓塞栓症(正解):

    • 血栓ができるまで(深部静脈血栓症:DVT): 数日間の長期臥床によって足の血流が滞ったこと、さらに新型コロナウイルス感染症自体が「血液が固まりやすくなる性質(高凝固状態)」を引き起こすため、左下肢の静脈の中に巨大な血の塊(血栓)が形成されました(これが「左下肢のむくみ」「左ふくらはぎの痛み」の原因です)。

    • 血栓が飛ぶ瞬間(排便後の突発): 本日、傷病者が「トイレに行った(いきんだ、または立ち上がって歩いた)」ことをきっかけに、足の静脈にあった血栓がペリッと剥がれて血流に乗り、下大静脈を経由して右心房・右心室を通り、肺の太い血管(肺動脈)にガツンと詰まりました

    • なぜ心停止に至ったか: 肺の血管が完全にブロックされたため、右心室は血液を前に押し出せなくなり、肺で酸素を取り込むこともできなくなります。これが「SpO2 75%の超低酸素血症」、血液が戻らなくなって首の血管がパンパンに腫れる「外頸静脈怒張(がいけいじょうみゃくどちょう)」、そして心臓から全身へ送る血流が途絶えた「血圧76/52 mmHg(閉塞性ショック)」の正体です。肺の音自体は綺麗(「異常呼吸音を聴取しない」)なのも、原因が空気の通り道(気管支)ではなく「血管の目詰まり」だからです。このショックと低酸素が極限に達し、搬送中に心停止へと至りました。

他の選択肢の分析(なぜ否定できるのか)

  • 1 急性心筋梗塞: 突然のショックや心停止の原因になりますが、「左ふくらはぎのむくみ・痛み」や、肺の血管が詰まることで起きる「外頸静脈怒張」をこれほどきれいに説明することはできません。

  • 3 うっ血性心不全: 第15問で解説した通り、心不全による肺水腫であれば、全肺野で「水泡音(パチパチという音)」が聞こえ、ピンク色の泡立つ痰が出るはずです。本症例は「異常呼吸音を聴取しない」と明記されているため否定できます。

  • 4 ウイルス性肺炎: 新型コロナによる肺炎であれば、数日前から徐々に(グラデーションを伴って)息苦しさが悪化し、聴診でも肺雑音(捻髪音など)が聞こえるはずです。「トイレに行った後から急に息苦しくなった」という秒単位の突発発症の経過とは一致しません。

  • 5 ウイルス性心筋炎: 心不全やショック、不整脈の原因になりますが、やはり「左下肢の局所症状(血栓症のサイン)」との結びつきがありません。

救急救命士としての臨床的視点:心停止波形の予測と「PEA」への対応

  1. 心停止時の波形は「PEA(無脈性電気活動)」: 肺塞栓症によって心停止に陥った場合、モニター心電図には高確率で PEA (心電図の波形は出ているのに、心臓の物理的な目詰まりのせいで脈が全く触れない状態)が記録されます。第17問のロジックの通り、電気ショックは適応外(Non-shockable)となるため、「絶え間ない胸骨圧迫 + 早期のアドレナリン投与の指示要請」が治療の主軸となります。

  2. 臨床現場での「問診」の破壊力: 救急隊が現場に到着した際、「急に息が苦しくなった」という主訴だけでは原因が分かりません。しかし家族から「最近コロナでずっと寝込んでいた」「そういえば足が痛いと言っていた」「トイレから出てきた途端に倒れた」というキーワードを聴取できれば、CTを撮る前であっても「肺塞栓によるショックだ、急変(心停止)するぞ!」と完全に身構えることができます。

  3. 搬送中の急変への覚悟: 急性肺塞栓症は、救急車内で最も急変(心停止)しやすい疾患の筆頭格です。血圧76 mmHg、SpO2 75%というバイタルを見た時点で、隊長は「一分一秒を争うロード&ゴー」を宣言し、車内ではいつ心停止してもいいようにBVMや除細動器、特定行為(アドレナリン投与)の資器材を完全に手元に広げた状態で、超厳重警戒を維持しながら走行します。

まとめ:長期臥床・コロナ + 片足のむくみ・痛み(DVT) + トイレ後に突然の激しい息切れ(PTE) = 肺血栓塞栓症(閉塞性ショック) = 車内での心停止(PEA)を最大警戒せよ!」 臨床医学において「絶対に見落としてはならない致命的疾患」のサインをこれでもかと詰め込んだ、救急隊の現場判断能力を鍛えるための超名問です。


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第49回D問題 第11問 特徴的なエピソード(長期臥床、下肢の浮腫・疼痛、排便・離床後の突発症状)から、エコノミークラス症候群として知られる「急性肺血栓塞栓症(肺塞栓症)」の病態を完全に見抜く、国試・臨床ともに超重要となる問題

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