2026年5月26日火曜日

第49回D問題 第37問 広範囲熱傷および気道熱傷の合併が疑われる重症例への現場対応を問う問題

 37 48歳の男性。自ら灯油をかぶって着衣に火をつけて受傷し、通行人が救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識清明。明らかな嗄声を認める。呼吸数28/分。脈拍120/分、整。血圧 164/108 mmHg。SpO2値 98%(10L酸素投与下)。現場での写真(別冊No.18)を示す。

この傷病者への対応で適切なのはどれか。2つ選べ。

1 創部を冷却する。

2 車内温度を上げ保温する。

3 用手的に気道を確保する。

4 救命救急センターに搬送する。

5 静脈路確保の指示要請をする。 


解答 2と4


解説:重症熱傷管理の優先順位

正解は2(車内温度を上げ保温する)4(救命救急センターに搬送する)です。

自ら灯油をかぶって着衣火災を起こしたエピソード、および「明らかな嗄声(させい:声のかすれ)」の所見から、全身の広範囲熱傷に加えて気道熱傷(上気道浮腫による窒息のリスク)を合併している超緊急病態と判断します。

  • 2 車内温度を上げ保温する:

    • 熱傷患者の低体温リスク: 広範囲に皮膚を消失した熱傷患者は、皮膚のバリア機能(体温調節機能)が破壊されているため、水分がどんどん蒸発し、それに伴う気化熱で急激に体温が低下します。

    • 低体温症(35℃未満)は、外傷の致命的な3徴(低体温、代謝性アシドーシス、凝固障害)を引き起こし、生存率を著しく低下させます。そのため、救急車内のエアコンを可能な限り高温に設定し、乾いた清潔なシーツや毛布等で覆って徹底的に保温することが、救急現場における重要な生命維持管理となります。

  • 4 救命救急センターに搬送する:

    • 広範囲熱傷(一般にⅡ度20%以上、Ⅲ度10%以上)、および気道熱傷を伴う症例は、高度な全身管理(大量輸液、人工呼吸器管理、急性期手術など)が必要不可欠です。

    • また、本症例は「自ら火をつけた(自殺企図)」という精神科的救急の側面も併せ持つため、身体的・精神科的治療を包括して行える高度救命救急センター(3次医療機関)への速やかな搬送が必須となります。

他の選択肢の分析

  • 1 創部を冷却する:

    受傷直後のごく限局した狭い範囲のやけどであれば冷却が有効ですが、着衣火災による広範囲熱傷において現場到着後に冷やし続けることは、致命的な低体温症を誘発するため禁忌です。現場では速やかに冷却を中止し、保温へシフトします。

  • 3 用手的に気道を確保する:

    現在、傷病者は意識清明(JCS 0)で、呼吸数28/分と自発呼吸を維持しています。用手気道確保(頭部後屈あご先挙上など)は、意識障害によって「舌根沈下」を起こしている患者に対する手技です。本症例の危険の本態は「のどの粘膜の腫れ(喉頭浮腫)」であるため、用手気道確保では解決しません。

  • 5 静脈路確保の指示要請をする:

    救命救急士の処置拡大において、心停止でない重症熱傷患者に対する「静脈路確保(点滴)および輸液」は、「救急車内での活動」として医師の指示を得て行うものです。現時点で現場にいる段階、あるいは車内への収容や気道管理より前に優先して要請するものではありません。ファーストステップは気道(A)と生命維持(保温・搬送)です。

救急救命士としての臨床的視点:気道熱傷のタイムリミット

  1. 「いま大丈夫」は通用しない:

    気道熱傷による喉頭浮腫は、受傷後数時間かけてじわじわと進行します。現場で「意識清明で話せる」状態であっても、数十分後に突然のどの腫れがピークに達し、完全に気道が閉塞して窒息死することがあります。

  2. 嗄声(させい)は「赤信号」:

    「声がかれている」という所見は、声帯のすぐ近くまで熱気や有毒ガスが到達し、組織がダメージを受けている決定的な証拠です。病院へ「気道熱傷を強く疑う嗄声あり。早期の気管挿管の準備をお願いします」と事前に明瞭にトリアージ情報を伝えることが、救命救命士の最も重要な役割の一つになります。

まとめ:

広範囲熱傷 + 声のかすれ(嗄声) = 時間差で窒息する超重症 = 冷却中止・車内高温で保温 + 救命センターへロード&ゴー!

やけどを「冷やす」のは初期のごく一部の段階だけ。救急隊の手の中に移ったら、最大の敵は「低体温」と「窒息」に変わることを意識しましょう。

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