2026年5月30日土曜日

第49回D問題 第33問 顔面・頸部外傷における最も重大な超緊急病態である「上気道閉塞」のリスクを予見できるかを問う問題

 33 60歳の女性。自転車走行中に、段差により転倒したため通行人が救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 20。呼吸数24/分。脈拍88/分、整。血圧138/86 mmHg。SpO2値 96%。全身観察では、下顎の変形と前頸部の腫脹とを認める。体表からの出血は認めない。胸腹部に打撲痕はなく、胸郭の挙上と呼吸音とに左右差はない。脊椎運動制限を行い、救急車に搬入した。

 この傷病者の搬送中に最も注意すべき変化はどれか。1つ選べ。

1 不整脈

2 気道閉塞

3 血圧低下

4 腹部膨隆

5 胸郭挙上の左右差


解答 2


解説:下顎骨折・前頸部腫脹と気道閉塞のメカニズム

正解は2(気道閉塞)です。

傷病者の観察所見から、「下顎の変形」と「前頸部の腫脹」という、呼吸の通り道(気道)の重大なピンチを示すサインが読み取れます。

  • 2 気道閉塞:

    • 下顎の変形(下顎骨折の疑い): アゴの骨(下顎骨)が折れて変形すると、舌を支えている筋肉の土台が失われます。意識障害(JCS 20)が重なると、重力によって舌が喉の奥に落ち込み(舌根沈下)、気道を完全に塞いでしまう危険性が極めて高くなります。

    • 前頸部の腫脹: アゴの下や首の前面が腫れているということは、その内部(咽頭・喉頭・気管の周囲)で激しい出血(血腫)や組織の腫れ(浮腫)が進行している証拠です。

    • 時間差での閉塞: 救急車内に搬入した時点では呼吸数24/分、SpO2値96%と維持されていますが、搬送中に血腫や腫れがさらに大きくなると、ある瞬間を境に空気の通り道が完全に押し潰され、突然の窒息(上気道閉塞)を引き起こす可能性が極めて高く、最も警戒しなければなりません。

他の選択肢の分析

  • 1 不整脈 / 3 血圧低下: 到着時のバイタルサインは脈拍88/分、血圧138/86mmHgと、循環動態は比較的安定しています。もちろん外傷性ショック等への警戒は必要ですが、本症例の局所所見(下顎・前頸部)から予測される「窒息」のリスクに比べれば、直ちに命を奪う最優先の変化とは言えません。

  • 4 腹部膨隆 / 5 胸郭挙上の左右差: 初期評価で「胸腹部に打撲痕はなく、胸郭の挙上と呼吸音とに左右差はない」と明記されているため、現時点で重症な胸部突き上げ(気胸・血胸など)や腹腔内出血の可能性は低く、搬送中に急激にこれらが主因となって崩れるリスクは低いです。

救急救命士としての臨床的視点:外傷性気道危急への構え

  1. 「A(気道)」の維持が最優先: 外傷初期診療(JPTECなど)の鉄則は 「何よりもまず気道(Airway)の確保」 です。アゴが折れている、首が腫れている、声が変わった(嗄声)、呼吸時に変な音がする(喘鳴)といった所見は、すべて「もうすぐ気道が詰まります」という身体からの赤信号(気道危急)です。

  2. 脊椎運動制限(ネックカラー)とのジレンマ: 自転車での転倒であり、救急隊は「脊椎運動制限(首の固定)」を行っています。しかし、首を固定した状態で仰向け(仰臥位)に寝かせると、下顎骨折による舌根沈下や頸部血腫による気道閉塞がさらに悪化しやすくなります。

  3. 車内での具体的な対策: 搬送中は傷病者の顔(呼吸状態)から一瞬も目を離さず、いつでも吸引ができる準備を整えます。もし舌根沈下による閉塞の兆候(いびき様呼吸など)が見られた場合は、脊椎運動制限を意識しつつも、愛護的に「下顎挙上法」を行うか、経口・経鼻気道(エアウェイ)の挿入を直ちに試みる必要があります。

まとめ:下顎の変形 + 首の腫れ = 搬送中に窒息(気道閉塞)するカウントダウン状態!」 バイタルサインの数値が今どれだけ安定して見えても、解剖学的な危険を先読みして備えることが救急隊の命を救う観察眼です。

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