2026年5月24日日曜日

第49回D問題 第38問 化学物質による皮膚損傷である化学熱傷(化学やけど)、特に強アルカリ性物質である「水酸化ナトリウム」への現場対応を問う問題

 38 40歳の男性。化学工場で作業中に誤って薬液のタンクに落下し、両下肢が膝上まで浸かり受傷した。同僚が直ちに救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:自力で脱出し、着衣を脱いで水道水による洗浄を開始した直後であった。意識清明。呼吸数16/分。脈拍84/分。血圧136/72 mmHg。体温37.0℃。SpO2値 97%。外表所見を写真(別冊No.19(A))に示す。同僚より図(別冊No.19(B))のような安全データシート(SDS)の提出があった。

 本傷病者の現場活動で適切なのはどれか。1つ選べ。

1 直ちに医療機関へ搬送する。

2 直近2次医療機関を選定する。

3 搬送中は局所の冷却を実施する。

4 現場での洗浄を20分以上継続する。

5 着衣は医療機関にそのまま持参する。


解答 4


第38問は、化学物質による皮膚損傷である化学熱傷(化学やけど)、特に強アルカリ性物質である「水酸化ナトリウム」への現場対応を問う問題です。

解説:化学熱傷における「流水洗浄」の重要性

正解は4(現場での洗浄を20分以上継続する)です。

化学熱傷、とりわけアルカリ性物質による熱傷は、酸性物質と比べてきわめて深刻な組織破壊を引き起こします。

  • アルカリ性物質の危険性: 水酸化ナトリウムなどの強アルカリは、皮膚のタンパク質を溶かし(融解壊死)、組織の奥深くへと際限なく浸透していく性質があります。表面を少し洗っただけでは、奥に入り込んだ薬剤が組織を破壊し続けます。

  • 4 現場での洗浄を20分以上継続する:

    • 薬剤の浸透を食い止め、組織深部へのダメージを最小限に抑えるための最も有効な方法は、「大量の流水でひたすら洗い流すこと」です。

    • 救急隊が到着した時点でまだ洗浄を開始した直後であるため、搬送を急ぐよりも、その場で最低20分以上(ガイドラインによっては痛みやpHが改善するまで)徹底的に水道水で洗浄を継続することが医学的に最優先されます。

他の選択肢の分析

  • 1 直ちに医療機関へ搬送する: 化学熱傷においては、「洗浄をしないまま、または不十分なまま搬送する」ことは致命的な悪化を招きます。現場での洗浄時間が不十分な段階での「直ちに搬送」は不適切です。

  • 2 直近2次医療機関を選定する: 両下肢の膝上までという広範囲の化学熱傷であり、アルカリによる深部組織損傷や将来的な皮膚移植の可能性を考慮すると、専門的な治療(植皮術や全身管理)ができる高度救命救急センターや熱傷専門施設(3次医療機関)を選定すべきです。

  • 3 搬送中は局所の冷却を実施する: 通常の熱傷であれば冷却が有効ですが、化学熱傷の搬送中(現場での十分な洗浄後)に「ただ冷やす(氷などで圧迫するなど)」だけでは意味がありません。搬送中も可能であれば持続的な「洗浄(洗い流し)」を行うか、湿潤環境を保つ処置をします。また、広範囲を冷やしすぎると低体温症のリスクにもなります。

  • 5 着衣は医療機関にそのまま持参する: 薬液が付着した着衣をそのまま救急車内に持ち込んだり、医療機関に持参したりすると、救急隊員や病院スタッフへの二次災害(二次汚染)を引き起こす危険があります。付着した衣服は現場で適切に脱衣させ、密閉袋などで隔離・処分するのが原則です。

救急救命士としての臨床的視点:化学災害(C災害)の鉄則

  1. 「ロード&ゴー」の例外: 外傷初期診療では「現場滞在10分」を目指しますが、化学熱傷(および眼の化学損傷)は数少ない「搬送よりも現場処置(洗浄)を優先する」例外的な病態です。

  2. 二次汚染の防止: 水酸化ナトリウムが付着した患者の皮膚を触る際は、救急隊員自身も必ず感染防止衣、二重のゴム手袋、ゴーグルなどを着用し、二次災害を防ぎます。

  3. SDS(安全データシート)の活用: 現場で同僚から提出されたSDSは、病院の医師にとっても非常に重要な情報源になります。物質名(水酸化ナトリウム)、濃度、解毒剤の有無などを確認し、必ず医療機関へ無線で伝達し、SDS自体も病院へ持参します(衣服は持参しませんが、書類は持参します)。

まとめ:アルカリ性化学熱傷 = 組織を溶かして奥へ進む = 搬送を遅らせてでも現場で20分以上洗う!」 化学熱傷のファーストラインは「大量の、持続的な水洗い」であることを徹底して覚えておきましょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿

第49回D問題 第11問 特徴的なエピソード(長期臥床、下肢の浮腫・疼痛、排便・離床後の突発症状)から、エコノミークラス症候群として知られる「急性肺血栓塞栓症(肺塞栓症)」の病態を完全に見抜く、国試・臨床ともに超重要となる問題

11 68歳の女性。新型コロナウイルス感染症に罹患し、数日前から臥床が続き、左下肢のむくみを認めていた。本日トイレに行った後から急に息苦しくなり、救急要請した。  救急隊到着時観察所見:意識JCS 2。呼吸数36/分。脈拍120/分。血圧76/52 mmHg。体温38.0℃。Sp...