2026年6月6日土曜日

第49回D問題 第25問 大量喀血(かっけつ:呼吸器からの出血)を来した傷病者への、窒息防止を最優先とした現場活動を問う問題

 25 78歳の男性。激しい咳嗽とともに血を吐いたため妻が救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 10。呼吸数28/分。脈拍104/分、整。血圧122/82 mmHg。体温37.8℃。SpO2値 88%。右胸部の聴診で断続性ラ音を聴取する。気管支拡張症があり通院中である。

 本事例への救急隊の活動について適切なのはどれか。2つ選べ。

1 右側臥位にする。

2 酸素を投与する。

3 喉頭鏡を用いて出血部位を確認する。

4 声門上気道デバイスの挿入を試みる。

5 バッグ・バルブ・マスクで補助換気を行う。


解答 1と2


解説:喀血における窒息防止と体位管理

既往に「気管支拡張症」があり、激しい咳とともに血を吐いている(喀血)ことから、拡張した気管支の血管が破綻して大出血を起こしている状態です。

  • 1 右側臥位(うそくがいつ:右を下にした横向き)にする:

    • 窒息の防止(最優先): 喀血における最大の死因は、失血死ではなく「血液が気管に詰まることによる窒息死」です。

    • 健側(正常な肺)の保護: 聴診所見で「右胸部」から異常な音(断続性ラ音)が聞こえることから、右側の肺が出血源であると判断できます。もし左側(良い方の肺)を下にして寝かせると、重力で血液が左の気管支へと流れ込み、両方の肺が血で潰れて完全に窒息してしまいます。そのため、「出血している側(右)をあえて下」にして、良い方の肺(左)に血が流れ込まないように保護するのが鉄則です。

  • 2 酸素を投与する:

    • 観察所見で SpO2値 88%、呼吸数28/分と著しい低酸素血症(呼吸不全)に陥っています。血液による気道閉塞や肺のガス交換障害が起きているため、高濃度酸素を速やかに投与して全身の酸素化を維持する必要があります。

他の選択肢の分析

  • 3 喉頭鏡を用いて出血部位を確認する: 喉頭鏡(こうとうきょう)は、気管挿管を行う際に声門を視覚的に確認するための器具です。救急隊が現場で喀血の出血点を喉頭鏡で探すような活動は行いません。また、刺激によってさらに咳(咳嗽)を誘発し、出血を悪化させる危険があります。

  • 4 声門上気道デバイスの挿入を試みる: 声門上気道デバイス(i-gelやラリンゲアルマスクなど)は、心停止時や完全な昏睡(JCS 300など)で自発呼吸がない、あるいは気道確保が不可能な場合に用いるものです。本症例はJCS 10と意識があり、自発呼吸(28/分)もあるため適応外です。また、これらを挿入しても肺の奥(気管支)からの出血を止めることはできません。

  • 5 バッグ・バルブ・マスクで補助換気を行う: 自発呼吸が28/分と出ており、意識もあるため、強制的に空気を送り込む補助換気(加圧)の第一適応ではありません。むしろ、気道内に溜まった血液をバギングの圧(陽圧)で肺の奥深くへ押し込んでしまい、窒息を悪化させる決定的な引き金になるため、喀血・吐血の急性期における安易な陽圧換気は禁忌に近い扱いとなります。

救急救命士としての臨床的視点:「吐血」との鑑別と吸引の準備

  1. 「喀血(かっけつ)」と「吐血(とけつ)」の厳密な違い: 現場では「口から血を吐いた」という通報で一括りにされますが、救急隊は以下の特徴から素早く鑑別します。

    • 喀血: 呼吸器(肺・気管)からの出血。激しい咳を伴い、血液は鮮紅色(明るい赤)で泡が混じる(pHはアルカリ性)。

    • 吐血: 消化器(胃・食道)からの出血。嘔気・嘔吐を伴い、血液は暗赤色(黒っぽい赤)で食物残渣が混じる(pHは酸性)。 本症例は「激しい咳嗽」「気管支拡張症の既往」から、100%喀血として動きます。

  2. 吸引の同時セット: 右側臥位を取らせると同時に、車内ではいつでも口の中に溢れた血を引けるよう、太い吸引チューブ(ヤンカー型など)を接続した吸引器を起動しておきます。傷病者が排出しきれない血塊を速やかに吸引し、気道をクリアに保ち続けることが搬送中の命綱になります。

まとめ:激しい咳 + 泡立つ赤色の血 = 喀血 = 窒息を防ぐために『悪い方の肺を下(患側下位)』にして高濃度酸素 + 吸引準備!」 出血している側を下にするという解剖学的なロジックは、国家試験でも実臨床でも極めて重要な知識です。

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