2026年6月6日土曜日

第49回D問題 第24問 アルコール性肝硬変の既往を持つ傷病者が引き起こした「食道静脈瘤破裂」による大量吐血と、それによる出血性ショックへの現場対応を問う問題

24 56歳の男性。突然の大量吐血を認めたため、家族が救急要請した。
 救急隊到着時観察所見:意識JCS 3。呼吸数32/分。脈拍124/分、整。血圧84/42 mmHg。体温36.2℃。SpO2値 96%。全身に冷や汗を認める。吐血が持続し下肢を挙上するも血圧は改善しない。アルコール性肝硬変の既往がある。
 この傷病者への適切な対応はどれか。1つ選べ。
1 補助換気をする。
2 血糖値を測定する。
3 経鼻エアウェイを挿入する。
4 口腔内を積極的に吸引する。
5 静脈路確保及び輸液の指示要請を行う。

解答 5

解説:門脈高血圧による静脈瘤破裂と致命的ショック

正解は5(静脈路確保及び輸液の指示要請を行う)です。

傷病者の背景(アルコール性肝硬変)と、バイタルサイン(脈拍124/分、血圧84/42mmHg、冷や汗、下肢挙上でも血圧不変)から、体内の血液が急速に失われている「ショック(心原性以外・特定機能障害を伴う重度傷病者)」の絶対的適応であると判断できます。

  • 5 静脈路確保及び輸液の指示要請を行う(正解):

    • 食道静脈瘤破裂の恐ろしさ: 肝硬変が進むと、肝臓に流れ込む血液の通り道(門脈)がパンパンに詰まり(門脈高血圧)、行き場を失った血液が食道の粘膜の下にある細い静脈に迂回してコブ(静脈瘤)を作ります。これが何らかの拍子に破裂すると、水道の蛇口をひねったような凄まじい勢いで大量の動脈血様の出血が胃や食道内に溢れ出します。

    • 一刻を争う輸液の必要性: すでに血圧が84/42mmHgまで低下し、下肢を挙上しても改善しない(ショックが非常に進行している)状態です。搬送途上で心停止に至る危険が極めて高いため、救急救命士は直ちに医師へ連絡(指示要請)し、静脈路を確保して細胞外液(生理食塩水やリンゲル液)を全開で投与(輸液)し、血圧(循環血液量)を維持しなければなりません。

他の選択肢の分析

  • 1 補助換気をする: 呼吸数は32/分と頻呼吸ですが、SpO2値は96%とまだ保たれており、自発呼吸もしっかり出ています。前問の喀血と同様、大量に血を吐いている(または胃の中に血が溜まっている)傷病者に対してバッグ・バルブ・マスクなどで不用意に陽圧をかけると、吐物を気管へ押し込んでしまい、最悪の窒息を誘発するため極めて危険です。

  • 2 血糖値を測定する: JCS 3の意識障害がありますが、原因は「大量失血による脳血流の低下(ショック)」であることが完全に明白です。低血糖を最優先に疑う局面ではないため、活動の優先度としては低いです。

  • 3 経鼻エアウェイを挿入する: 経鼻エアウェイは意識障害時の舌根沈下を防ぐための器具ですが、食道静脈瘤がある傷病者に対して鼻からチューブを愛護的でなく挿入すると、鼻腔や咽頭を刺激してさらなる嘔吐や出血を誘発するリスクがあります。また、現在自発呼吸で気道は開通しています。

  • 4 口腔内を積極的に吸引する: 口腔内に溢れた血液を「必要に応じて吸引する」ことは窒息予防に必須ですが、カテーテルを「積極的に(奥深くまで何度も)」突っ込んで吸引することは、咽頭や食道粘膜を直接刺激し、傷病者の嘔吐反射を誘発してさらなる大吐血を引き起こす引き金になりかねません。必要最小限の愛護的な吸引にとどめるべきです。

救急救命士としての臨床的視点:車内での「吐血」への備えと体位

  1. 体位は「左側臥位」が基本: 喀血(呼吸器からの出血)のときは「悪い方の肺を下」にしましたが、吐血(胃からの出血)のときは「左側臥位(左下)」が基本となります。解剖学的に、胃は体の左側に位置し、出口(幽門)は右側を向いています。左を下にして寝かせることで、胃の中に溜まった血液が逆流して口から溢れ出るのを物理的に抑え、誤嚥(窒息)のリスクを減らすことができます。

  2. 輸液のタイムライン: 心停止前の重度傷病者に対する静脈路確保と輸液は、救急車内で行う処置です。医師へのプロトコール要請を車内収容と同時に速やかに行い、太い留置針(18Gなど)を用いて迅速にラインを立ち上げます。

まとめ:肝硬変の既往 + 容赦ない大吐血 = 食道静脈瘤破裂 = 左側臥位で窒息を防ぎつつ、車内で直ちに医師に指示要請して全開輸液!」 ショックの進行を食い止めるための「静脈路確保・輸液」の重要性が非常によく分かる一問です。

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