2026年6月13日土曜日

第49回D問題 第18問 清涼飲料水の大量摂取を背景に発症した致死的な代謝性救急疾患「ペットボトル症候群(高度の糖尿病性ケトアシドーシス:DKA、または高浸透圧高血糖状態:HHS)」の病態と身体所見を問う問題

18 35歳の男性。自室で意識を失っているのを家族が発見して救急要請した。

救急隊到着時観察所見:意識JCS 100。呼吸数24/分。脈拍96/分、不整。血圧108/74 mmHg。体温36.5℃。SpO2値 92%。果物臭(アセトン臭)の息がした。四肢の麻痺は認めない。家族から「(傷病者は)毎日清涼飲料水を2-3Lほど摂取していた。」と聴取した。

 この傷病者で認められる所見はどれか。1つ選べ。

1 貧血

2 低血糖

3 瞳孔不同

4 皮膚乾燥

5 血圧の左右差


解答 4


解説:ペットボトル症候群と高度脱水のメカニズム

傷病者の背景(毎日清涼飲料水を2〜3L摂取)と、特徴的な呼気(果物臭・アセトン臭)、および意識障害(JCS 100)から、極めて高度な高血糖状態に陥っていると判断できます。

  • 4 皮膚乾燥(正解):

    • 浸透圧利尿による極度の脱水: 血液中の糖分が異常な高値になると、腎臓は過剰な糖を尿として外へ排出しようとします。その際、糖が強力な水分引き込み役(浸透圧)となるため、体内の水分が大量の尿として奪われます(浸透圧利尿)。

    • 細胞内・皮膚の乾燥: 数リットルレベルの水分が失われるため、体はカラカラの「重度脱水状態」に陥ります。救急隊が皮膚に触れると「カサカサに乾燥している」、あるいは皮膚を引っ張ると元に戻りにくい(皮膚緊張度:ツルゴールの低下)、口の中の粘膜が乾燥している、といった所見が非常に顕著に現れます。

他の選択肢の分析(糖尿病性昏睡のバイタル)

  • 1 貧血: 高血糖やケトアシドーシスの直接的な所見ではありません。むしろ、脱水によって血液が濃縮されるため、検査値上は一見、赤血球やヘモグロビンが「高く」見えることがあります(相対的多血)。

  • 2 低血糖: 病態は真逆の「著しい高血糖」です。糖分の多い清涼飲料水をガブ飲みし続けたことで、インスリンの分泌や働きが追いつかなくなり、血糖値が数百〜1,000 mg/dL以上に跳ね上がっています。

  • 3 瞳孔不同 / 5 血圧の左右差: これらは「脳ヘルニア(頭蓋内病変)」や「大動脈解離」など、解剖学的な左右非対称の異常(局所神経症状や血管の物理的閉塞)を疑うサインです。本症例のような代謝(血液全体の異常)による意識障害では、瞳孔は通常正円・同大であり、血圧に明らかな左右差が出ることはありません。

救急救命士としての臨床的視点:アセトン臭と呼吸様式

  1. 「アセトン臭」は脂肪が燃えた燃えカス: インスリンが効かなくなると、体は血糖(糖分)をエネルギーとして使えなくなります。代わりに「脂肪」をエネルギーとして無理やり分解し始めますが、その時にできる副産物が「ケトン体(アセトン)」です。これが血液に溢れて息から排出されるため、マニキュアの除光液や腐ったリンゴに似た果物臭(アセトン臭)がします。

  2. クスマウル呼吸(大呼吸)への警戒: ケトン体は「酸性」の物質であるため、血液が強い酸性に傾きます(ケトアシドーシス)。体は酸性を中和するために、息を大きく激しく吐き出して二酸化炭素(酸性物質)を外へ逃がそうとします。本症例の呼吸数24/分、あるいは「深く、大きな呼吸をハァハァと規則正しく続ける(クスマウル呼吸)」は、この代謝性アシドーシスを代償しようとする特異的な呼吸様式です。

  3. 救急隊による血糖測定の重要ステップ: JCS 100の意識障害があるため、救急救命士は車内収容後、プロトコールに基づき「特異的機能障害(意識障害)」として血糖測定を行います。測定器の画面に「High(測定不能なほどの高血糖)」と表示されたり、この清涼飲料水のエピソードがあれば、直ちに大量の輸液(細胞外液)が必要な重症代謝救急として、内分泌・代謝内科のある総合病院へ搬送します。

まとめ:清涼飲料水の大量摂取 = ペットボトル症候群(高血糖) = 体がカラカラになる『高度脱水(皮膚乾燥)』 + 息がリンゴ臭(アセトン臭)!」 日常の生活習慣の聴取と、五感(臭い、皮膚の触感)での観察が、内科的昏睡の正体を見破る決定打になる良問です。

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