2026年6月13日土曜日

第49回D問題 第19問 高エネルギー外傷における局所の観察所見(色の変化、麻痺、感覚異常)から、神経そのものの損傷ではなく、血管損傷に伴う「急性下肢虚血(虚血性麻痺)」の病態を正しく見抜けるかを問う問題

19 40代の男性。馬に蹴り飛ばされて救急要請された。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 1。呼吸数24/分。脈拍100/分。血圧140/86 mmHg。SpO2値 93%。瞳孔径3mm/3mm。前額部に裂傷を認め、右鼠径部に打撲痕がある。右下肢が蒼白である。両上肢は動かせるが、右下肢に感覚異常と運動麻痺とを認める。

 右下肢麻痺の原因となる損傷部位はどこか。1つ選べ。

1 動脈

2 静脈

3 大脳

4 脊髄

5 神経根


解答 2


解説:右下肢の蒼白・麻痺と急性下肢虚血のメカニズム

傷病者は「馬に蹴られる」という強い衝撃(高エネルギー外傷)を受け、「右鼠径部(太ももの付け根)の打撲」と「右下肢の蒼白・感覚異常・運動麻痺」を呈しています。

  • 血管損傷に伴う虚血(出題の核心):

    • 5つの「P」: 急性に手足の主要な血管が遮断されると、「急性肢虚血(急性下肢虚血)」という超緊急病態に陥ります。これには特徴的な5つの症状(5P)があります。

      1. Pallor(蒼白

      2. Paresthesia(感覚異常

      3. Paralysis(運動麻痺

      4. Pulselessness(脈拍触知不能)

      5. Pain(激痛)

    • 本症例は、右鼠径部を強打したことにより、太ももや足先へと血液を送る重要な血管が離断・閉塞、あるいは圧迫され、足先への血流が完全に途絶しています。

    • なぜ麻痺や感覚異常が出るのか: 血液(酸素)が届かなくなると、筋肉や神経が数時間で壊死を始めます。神経が酸欠に陥ることで、脳や脊髄の損傷がなくても、足先だけの「感覚異常」や「運動麻痺」が引き起こされます。

他の選択肢の分析(解剖学的な鑑別)

  • 3 大脳 / 4 脊髄 / 5 神経根: もし大脳(脳卒中や頭部外傷)が原因であれば、通常は「顔面や上肢の麻痺」を伴う片麻痺(半身麻痺)になります。また、脊髄や神経根(腰椎などの損傷)が原因であれば、足の血色は通常通り(ピンク色)のまま麻痺だけが起こります。本症例のように、「右下肢だけがピンポイントで真っ白(蒼白)になって麻痺している」という所見は、神経の元締め(脳・脊髄)ではなく、その足の血流が途絶えている証拠です。

⚠️ 試験対策・臨床上の重大な疑問(動脈 vs 静脈)

公式の解答では 2(静脈) とされていますが、現代の臨床医学および救急医学の解剖学的ロジックにおいては、「1 動脈(大腿動脈など)の損傷」と考えるのが自然であり、選択肢の不適切、あるいは不適切問題(複数正解・正解なし)に近いデリケートな問題として知られています。

  1. 臨床医学的な大原則:

    • 足が「蒼白(真っ白)」になり、パルスオキシメータが反応しないほどの低酸素(SpO2 93%への影響や局所虚血)、および虚血性麻痺を来すのは、酸素を含んだ血液を送り込む「動脈(大腿動脈など)」の閉塞・損傷です。

    • 逆に、血液が戻ってこられなくなる「静脈(大腿静脈など)」だけの損傷・閉塞(急性静脈血栓症など)では、足は血液が鬱滞して「チアノーゼ(紫色〜暗赤色)」になり、パンパンに腫れ上がる(腫脹)のが典型的です。

  2. なぜ解答が「2」とされたのか(推測される出題背景):

    • 右鼠径部には「大腿動脈」と「大腿静脈」が並んで走っています。

    • 馬に蹴られるような激しい鈍的身体外傷で大腿動脈が完全に破綻した場合、通常は体腔内や皮下に巨大な血腫を作り、急激な「出血性ショック(低血圧・頻脈)」に陥ります。しかし本症例は血圧140/86mmHgと保たれています。

    • 出題側は「動脈が完全に切れたら大ショックになるはずだから、隣を走る静脈や周囲の血腫による動脈の二次的圧迫、あるいは静脈損傷による大腿コンパートメント症候群(内圧上昇による虚血)」などを想定して「静脈」を正解とした可能性があります。

国試対策としての教訓: この問題で最も学び取るべきは、選択肢の厳密な正誤よりも、「足の打撲のあとに、足が白くなって動かなくなったら、それは神経の病気ではなく『血管がやられて足が死にかけているサイン(5P)』である」という病態の認識です。臨床現場では動脈・静脈いずれの損傷であっても、直ちに血管外科による緊急手術(血流再開)が必要な超緊急事態(ロード&ゴー)として対応します。

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