2026年6月13日土曜日

第49回D問題 第15問 急性心不全(急性肺水腫)の病態生理と、救急現場で行う基本的な体位管理「起坐位」が心臓に与える血液力学的な効果を問う問題です。

15 67歳の女性。昨夜から呼吸がしにくいと訴えていた。今朝になり血が混じったような痰が出たことから家族が心配になり救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS 1。呼吸数24/分。脈拍110/分、整。血圧180/100 mmHg。SpO2値 86%。全肺野で水泡音を聴取する。喀出された痰を図(別冊No.9)に示す。

 この傷病者を起坐位にすることで最も期待される効果はどれか。1つ選べ。

1 後負荷の軽減

2 心拍数の増加

3 前負荷の軽減

4 循環血液量の増加

5 心筋収縮力の増加





解答 3


※ 救命士王から

 心不全時には、必ず起坐位を維持し搬出すること。CPAに移行するとしたら酸素欠乏よるものなので必ず高濃度酸素投与以上の酸素化を図る。換気量が少ないようであれば躊躇せずにBVM。座位を維持し、BVM換気しながらの搬出は苦慮するが訓練等での習熟が必要。必ず現場でCPAに移行する症例。躊躇せずにBVM。


解説:急性肺水腫と起坐位の効果

傷病者は高血圧(180/100 mmHg)を背景に、呼吸困難、著しい低酸素血症(SpO2 96%未満の86%)、全肺野での水泡音(湿性ラ音)、そして別冊画像にあるようなピンク色の「泡沫喀痰(ほうまつかくたん:泡立つ血性痰)」を認めています。これらはすべて、左心系のポンプ機能が破綻して肺に血液がうっ血し、水分が肺胞に染み出した「急性肺水腫(左心不全)」の教科書通りの典型的な所見です。

  • 3 前負荷の軽減(正解):

    • 前負荷(Preload)とは: 静脈を通って「心臓へと戻ってくる血液の量(静脈還流量)」、あるいはそれによって拡張した心室にかかる圧のことです。

    • なぜ座らせると楽になるのか: 傷病者を仰向け(臥位)のままにすると、下半身の血液が重力の制限なくドッと心臓に戻ってきてしまいます(前負荷の上昇)。ただでさえパンクしかけている左心室にこれ以上血液が戻ってくると、肺のうっ血がさらに悪化し、溺れるような息苦しさに襲われます。

    • そこで、体を起こして「起坐位(または半座位)」にすると、重力によって血液が下半身(腹部や下肢の静脈)にプールされ、心臓へ戻る血液の量(前負荷)が物理的に減少(軽減)します。これにより、肺のうっ血が一時的に和らぎ、呼吸が劇的に楽になります(これを起坐呼吸と呼びます)。

他の選択肢の分析

  • 1 後負荷の軽減: 後負荷(Afterload)とは、心臓が血液を全身に送り出すときに逆らう「血管の抵抗(末梢血管抵抗や血圧)」のことです。体位を起坐位にするだけでは、血圧そのものを直接大きく下げる(後負荷を減らす)効果は弱いです。後負荷を下げるには、病院でのニトログリセリンなどの血管拡張薬の投与が主役となります。

  • 2 心拍数の増加 / 5 心筋収縮力の増加: これらは心臓の頑張りを増やす方向の変化です。急性心不全の心臓はすでに脈拍110/分と限界までオーバーワークしているため、これ以上心拍数や収縮力を増やす(酸素消費量を増やす)ことは、心臓をさらに疲弊させるため治療の目的とはなりません。起坐位による静脈還流の減少は、むしろ心臓の負担を減らす方向に働きます。

  • 4 循環血液量の増加: 体位を変えても、体の中を流れる全体の血液量(循環血液量)そのものが増えるわけではありません。

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