14 40歳の男性。突然の悪心の後、トイレで大量の血液を嘔吐したため、家族が救急要請した。
救急隊到着時観察所見:意識JCS 2。呼吸数28/分。脈拍118/分、整。血圧120/100 mmHg。SpO2値 94%。四肢の蒼白と冷感を認める。腰痛のため2週前から鎮痛解熱薬を内服している。
この傷病者の出血量は循環血液量の何%と推定されるか。1つ選べ。
1 15%未満
2 15~30%
3 30~40%
4 40~50%
5 50%以上
解答 2
解説:バイタルサインから見る出血の4段階(ATLS分類)
外傷や急性消化管出血における出血量とバイタルサインの関係は、国際的な救急医学基準であるATLS(Advanced Trauma Life Support)の分類(一般に体重70kgの成人を基準とする)に基づいて4つのステージに分けられます。
本症例のバイタルサインをこの基準に当てはめてみましょう。
| 出血の段階 | 出血量(%) | 脈拍(回/分) | 血圧 | 呼吸数(回/分) | 意識状態・その他 |
| クラス I | 15%未満 | 100未満 | 正常 | 14〜20 | 正常、少し不安 |
| クラス II | 15〜30% | 100〜120 | 正常(保たれる) | 20〜30 | 軽度の不安、頻呼吸、皮膚冷感 |
| クラス III | 30〜40% | 120〜140 | 低下 | 30〜40 | 意識障害(不穏・混乱) |
| クラス IV | 40%以上 | 140以上 | 著明な低下 | 35以上 | 昏睡・生命の危機 |
本症例のデータとの照合
脈拍 118/分: クラス II(100〜120)の範囲にピタリと収まります。
血圧 120/100 mmHg: 収縮期血圧(120)はまだ正常に保たれています。また、ショックの初期には交感神経が働いて末梢血管をすぼめるため、拡張期血圧(下)が上がり、脈圧(上の血圧と下の血圧の差)が狭くなる(20 mmHg)というクラス II 特有の兆候が出ています。
呼吸数 28/分: クラス II(20〜30)の頻呼吸に合致します。
四肢の蒼白・冷感、JCS 2: 血液の減少を補うために手足の血管が収縮しているサインです。
以上のことから、傷病者は「クラス II(出血量 15〜30%)」の代償期ショックにあると判断できます。
他の選択肢の分析
1 15%未満(クラス I):
献血(約400mL=循環血液量の約8〜10%)と同等か少し多い程度の出血です。この段階では、脈拍は100回/分を超えず、冷や汗や四肢冷感といった明らかなショック症状は出ません。
3 30〜40%(クラス III) / 4・5(クラス IV):
これ以上の出血量(クラス III 以降)になると、体が血管を縮めるだけの代償能力を超えてしまい、収縮期血圧が100 mmHgを大きく割り込んで低下(低血圧)します。また、脳への血流が維持できなくなり、意識障害もJCS 10〜100(不穏や傾眠)へと著しく悪化します。
救急救命士としての臨床的視点:薬の副作用と「隠れた重症度」
NSAIDs(解熱鎮痛薬)による胃潰瘍の合併:
エピソードにある「腰痛のため2週前から鎮痛解熱薬を内服」は、極めて重要な病歴です。ロキソプロフェンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、副作用として胃粘膜を保護する物質を減らしてしまうため、長期間飲むと「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」を引き起こし、そこから突然大出血(吐血)することが多々あります。
「血圧が正常」という罠(代償期ショック):
救急現場で最も見落としやすいのが、「血圧が120あるからまだ大丈夫だろう」という油断です。若い人や元々高血圧の人は、血液が3割近く失われても、交感神経の力で血圧の数値を無理やり維持(代償)できます。
しかし、この段階は崖っぷちの状態であり、これ以上1滴でも血が漏れれば、一気に坂道を転げ落ちるように血圧が崩壊(非代償期へ移行)します。「血圧の数値」ではなく、「脈拍の上昇(118)」「脈圧の短縮(差が20)」「手足の冷たさ」を敏感に察知し、重症として扱わなければなりません。
現場での体位管理と静脈路確保の準備:
大量吐血の傷病者は窒息の危険が高いため、前述の通り「左側臥位」で管理します。また、いつでも医師に指示要請して輸液(特定行為)を開始できるよう、搬送中もバイタルサイン(特に心拍数と脈圧)の推移を秒単位で監視し続けます。
まとめ:
「血圧は正常 + だけど脈拍110超え + 脈圧が狭い(差が20) = 体が必死に耐えている代償期ショック(出血量 15〜30%) = 崖っぷちの重症として急ぎ搬送!」
血圧の数値だけに騙されず、複数のバイタルサインを立体的に組み合わせて体内の出血量をプロとして見立てる、極めて実戦的な良問です。
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