2026年6月6日土曜日

第49回D問題 第22問 12誘導心電図の所見から病態を特定し、その疾患に特有の「胸痛の性状(内臓痛の特徴)」を正しく選べるかを問う臨床問題

22 65歳の男性。胸部に痛みを感じたため救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識清明。呼吸数24/分。脈拍64/分。血圧120/90 mmHg。SpO2値 95%。心電図モニターで波形の異常を認めたため記録した12誘導心電図(別冊No.11)を示す。

 この病態の痛みの特徴はどれか。1つ選べ。

1 呼吸で増強する。

2 嘔吐が契機となる。

3 局在が明らかである。

4 胸が締め付けられる。

5 ピリピリした性状である。






解答 4


解説:急性心筋梗塞(AMI)と虚血性胸痛の特徴

傷病者の年齢(65歳男性)、突然の胸痛、そして「12誘導心電図で波形の異常(別冊No.11でおそらくST上昇が記録されている)」という記述から、病態は心臓の血管(冠動脈)が完全に詰まった急性心筋梗塞(AMI)と判断できます。

  • 4 胸が締め付けられる(正解):

    • 心筋虚血による内臓痛: 心臓の筋肉(心筋)への血流が途絶えて酸欠(壊死)に陥ると、自律神経を介した内臓痛が発生します。

    • 痛みの表現: 内臓痛は、傷病者によって「胸が締め付けられる(絞扼感:こうやくかん)」「象に踏まれているように重苦しい(圧迫感)」「胸が焼けるように痛い(灼熱感)」と表現されます。これは心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患の典型的な痛みの性状です。

他の選択肢の分析(胸痛の鑑別診断)

救急現場において、胸痛の「伝わり方」や「痛みの種類」は原因疾患を絞り込むための極めて重要な手がかり(鑑別点)になります。

  • 1 呼吸で増強する: 呼吸や咳、深呼吸、あるいは体の向きを変えたときに痛みが強くなる(体位変換痛)のは、体性痛の特徴です。代表的な疾患として、胸膜炎、心膜炎、気胸、肋骨骨折などが挙げられます。心筋梗塞の痛みは呼吸によって変化しません。

  • 2 嘔吐が契機となる: 激しい嘔吐をきっかけに突然激しい胸痛や上腹部痛が起こる病態といえば、特発性食道破裂(ブールハーフェ症候群)が有名です。胃の内圧が急上昇して食道が破れる非常に重篤な疾患ですが、心筋梗塞の引き金になるわけではありません。

  • 3 局在が明らかである: 「ここがピンポイントで痛い」と指1本で示せるような局在が明らかな痛み(体性痛)は、皮膚や肋骨、胸膜などのトラブル(肋間神経痛や打撲など)に多いです。これに対し、心臓のような内臓の痛み(内臓痛)は、手のひら全体で胸を押さえるような「場所がはっきりしない、境界が曖昧な痛み」になります。

  • 5 ピリピリした性状である: 皮膚の神経に沿ってピリピリ、チクチクとした鋭い痛みが走る場合は、帯状疱疹(たいじょうほうしん)の初期症状や、神経痛が強く疑われます。

救急救命士としての臨床的視点:心筋梗塞における「痛みの落とし穴」

  1. 「痛くない」心筋梗塞に要注意(無痛性心筋梗塞): 国試や教科書では「胸が締め付けられるような激痛」と習いますが、臨床現場では高齢者、糖尿病の既往がある患者、透析患者において、痛みを全く訴えない(あるいは「なんとなく元気がない」「少し胃がムカムカする」程度)というケースが全体の2〜3割に達します。本症例でも「糖尿病の内服加療中」などの背景がある場合は、痛みの強さだけで重症度を過小評価してはいけません。

  2. 12誘導心電図の早期伝送と時間管理: 12誘導心電図でST上昇を確認した(STEMI:ステミ)場合、救急隊の目標は「現場接触から病院の冠動脈カテーテル治療(PCI)開始までの時間を最短にすること」です。車内収容後直ちに搬送先(循環器内科の緊急カテーテルが可能な病院)へ心電図波形を伝送し、医師へ直接「心筋梗塞を疑う12誘導心電図です」とファーストコールを行います。

  3. 心原性ショック・致死性不整脈への備え: 心筋梗塞の発症直後は、最も心室細動(VF)などの致死性不整脈を合併しやすい時間帯です。搬送中は意識が清明であっても常に除細動器(パッド)を傷病者のすぐ脇に準備し、いつでも電気ショックが打てる体制を維持しながら走行します。

まとめ:心電図のST上昇 = 急性心筋梗塞 = 手のひらで胸を押さえるような、境界が曖昧な『締め付けられるような痛み(内臓痛)』!」 胸痛の表現方法から、その奥にある解剖学的・生理学的な痛みの受容器の機序までをリンクさせる、非常に実践的な問題です。

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