2026年6月6日土曜日

第49回D問題 第21問 頻脈性不整脈が引き起こす心原性失神の血液力学的なメカニズムを問う良問です。

 21 45歳の男性。動悸を訴え、ソファーから立ち上がった時に突然意識消失したため家族が救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識清明。呼吸数20/分。橈骨動脈で脈拍を触知するが数えられない。血圧108/70 mmHg。SpO2値 96%。全身の発汗と四肢冷感とを認める。心電図モニター波形(別冊No.10)を示す。家族によれば、横たわって1分程度で意識が戻ったとのことである。「倒れたことは覚えていない。まだドキドキする。」と訴えている。

 この失神の誘因となった病態はどれか。1つ選べ。

1 心拍出量の増加

2 循環血液量の減少

3 副交感神経の過緊張

4 左室充満血液量の低下

5 全末梢血管抵抗の低下






解答 4


解説:頻脈による心拍出量低下のメカニズム

傷病者の主訴(動悸、立ち上がった瞬間の失神)と、到着時の所見(橈骨動脈が速すぎて数えられない、冷や汗、四肢冷感)、およびモニター波形(別冊No.10でおそらく発作性上室性頻拍:PSVT心室頻拍:VT などの著しい頻脈)から、この失神は不整脈が原因の心原性失神であると分かります。

  • 4 左室充満血液量の低下(正解):

    • 拡張期の短縮: 心臓が正常に血液を全身に送り出すためには、「血液をギュッと絞り出す時間(収縮期)」と「次の血液を室内にじゅうぶん溜め込む時間(拡張期)」のバランスが必要です。

    • しかし、不整脈によって心臓が1分間に150〜200回以上も異常に速く拍動すると、心臓が膨らんで血液を溜める時間(拡張期)が極端に短くなってしまいます。

    • 空打ち状態: 結果として、全身に血液を送り出すポンプの本丸である「左心室(左室)」の中に血液が十分に溜まらなくなり(左室充満血液量の低下)、心臓が空回りのような状態になります。これにより、1回に押し出される血液の量(1回拍出量)が激減し、脳への血流が瞬間的に途絶えて失神を引き起こしました。

他の選択肢の分析(生理学的な機序の鑑別)

  • 1 心拍出量の増加: 心拍出量(1分間に心臓が出す血液の総量)が「増加」していれば、脳血流は維持されるため失神は起きません。本症例では頻脈が早すぎるために、かえって心拍出量が「低下」しています。

  • 2 循環血液量の減少: これは「脱水」や「大出血(出血性ショック)」の際の病態を指します。本症例は、体内の水分や血液そのものが減ったのではなく、心臓のポンプ機能(回転が速すぎる問題)が原因であるため不適切です。

  • 3 副交感神経の過緊張: これは「迷走神経反射(血管迷走神経性失神)」のメカニズムです。強い痛み、恐怖、長時間の起立などをきっかけに副交感神経が優位になると、徐脈(脈が遅くなる)や血圧低下を来して失神します。本症例は「脈が数えられないほどの頻脈」であるため、真逆の病態です。

  • 5 全末梢血管抵抗の低下: これは、アナフィラキシーショックや敗血症性ショック、あるいは一部の神経原生失神などで「全身の血管がだらんと開ききってしまい、血圧が下がる」病態(血液分布異常性ショック)を指します。本症例の「発汗・四肢冷感」という所見は、むしろ下がった血圧を維持しようと交感神経が働き、末梢血管を「収縮」させている(抵抗を上げている)サインです。

救急救命士としての臨床的視点:一見「意識清明」の罠

  1. 「いま元気」に騙されない: 家族の「横たわって1分程度で意識が戻った」という証拠の通り、心原性失神は仰向けに倒れることで脳血流が物理的に改善し、速やかに意識が回復するのが特徴です。救急隊が到着したときには「意識清明で普通に話せる」状態に戻っていることが多いため、緊急度を見誤らないように注意が必要です。

  2. ショックのサインを見逃さない: 血圧は108/70 mmHgと一見保たれているように見えますが、「発汗」と「四肢冷感(手足の冷たさ)」は、体が必死にショック状態と戦っている(代償している)重要なサインです。橈骨動脈が細かく速すぎて触知困難な状態も含め、循環動態は極めて不安定(Unstable)な危機的状況です。

  3. 車内での急変(心停止)への備え: 搬送中、再びこの危険な頻脈が原因で脳血流が途絶えたり、そのまま心室細動(VF)などの致死性不整脈に移行して心停止に至るリスクが非常に高いです。車内では12誘導心電図を速やかに記録・伝送し、除細動パッドを傷病者に初めから貼付した状態で、いつでも電気的除細動(またはAED)が起動できるよう身構えて搬送します。

まとめ:突然の失神 + 数え切れないほどの頻脈 = 心臓の空回り = 拡張期が短すぎて『左室充満血液量が低下』したための心原性失神!」 不整脈がなぜ失神を来すのかという、救急医学の根本的な血液力学(ヘモダイナミクス)を理解するための重要な一問です。

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