22 72歳の男性。突然の胸部から背部に移動する引き裂かれる痛みのため、救急要請した。
救急隊到着時観察所見:意識清明。呼吸数20/分。脈拍104/分、整。血圧156/84mmHg(右上肢)、208/112mmHg(左上肢)。Sp02値99%。全身に冷や汗を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。
搬送中、呼びかけに応答しなくなった。意識JCS100。呼吸数32/分。脈拍132/分、整。血圧78/50mmHg(左上肢)。頸静脈怒張を認める。心音は減弱し、呼吸音に異常を認めない。
病態変化を引き起こした成因はどれか。1つ選べ。
1 右冠動脈の閉塞
2 腕頭動脈の閉塞
3 胸膜腔の液体貯留
4 心膜腔の液体貯留
5 大動脈弁の機能不全
解答 4
解答:4 心膜腔の液体貯留
各選択肢の解説
選択肢 1:右冠動脈の閉塞(誤り) 大動脈解離が冠動脈入口部まで及ぶと心筋梗塞を併発しますが、本症例の「心音減弱」「頸静脈怒張」というベックの三徴は、虚血よりも物理的な圧迫を示唆します。
選択肢 2:腕頭動脈の閉塞(誤り) 到着時の「左右の血圧差(右上肢<左上肢)」は、腕頭動脈への解離の波及を疑わせます。しかし、その後の意識消失や血圧低下の主因は、血管の閉塞ではなく循環不全(ショック)です。
選択肢 3:胸膜腔の液体貯留(誤り) 胸膜腔への出血(血胸)でも血圧は低下しますが、「頸静脈怒張」は起こりません(むしろ虚脱します)。また、呼吸音に異常がないことからも血胸は否定的です。
選択肢 4:心膜腔の液体貯留(正解) 上行大動脈の解離が心嚢内へ破れると、心タンポナーデを引き起こします。血液が心膜腔に貯留して心臓を圧迫するため、心音が遠くなり(減弱)、静脈圧が上昇(頸静脈怒張)し、血圧が急降下します。
選択肢 5:大動脈弁の機能不全(誤り) 解離によって大動脈弁閉鎖不全(AR)が起こることはありますが、その場合は「心雑音(拡張期雑音)」が聴取されるはずです。本症例の急激なショック状態の説明としては心タンポナーデが優先されます。
現場活動のポイント
移動する激痛と左右の血圧差、そして搬送中のショック転化。この経過は**「Stanford A型解離の心タンポナーデ合併」**の教科書的な流れです。現場で「心音が小さくなった」と感じたら、一刻を争う致死的状況であると判断する必要があります。
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